四角いフレームのメガネをかけた彼女は、難しい顔をしていた。



タイトなスカートに、足の細さが引き立つ黒いタイツ。


仕事がデキる女、といういかにもな見た目の彼女は、
原稿を置いて俺を見据えた。




それから、やれやれと言うように溜め息を零す。







「…やっぱり、ありきたりなのよねぇ。」










編集部の一角、
忙しなく働く人々の声や足音。

鳴り響く電話。





綺麗に整頓されたデスクに頬杖をついて、彼女は言う。



「文章力はある、でも香住さんが書く物ってそれだけなのよね。
何ていうか…ライトノベルっぽい。」


「ライトノベル、ですか…。」


「そう!エロスが足りないのよ!読者を引きつけるようなパンチのあるエロスがっ!!」




力説する彼女を冷静に見つめる。








エロスが足りないなんて官能小説家としては致命的だろう。





しかし、俺は頭の片隅で別の事を思っていた。



未だに力説を繰り広げる編集者の女、
彼女のような女性は昔から苦手だった。