「あーぁ。千早、今頃何やってんだろー。」
まるで独り言のようにリョウが呟いて、場の空気が固まった。
「壱、パスタおかわりしますか?」
何事もなかったみたいに口を開く香住、俺は首を横に振る。
「そうですかぁ。千早くんがいない事を忘れて作り過ぎてしまったんですよねぇ。」
そして、また、空気が止まる。
耐えかねたのか、リョウはクスクスと笑いだした。
「ボクら、重症だネ。千早のことばかりだ。」
「……俺は何も言ってねぇぞ。」
反論する梓月を見つめて、リョウは嘲笑う。
「梓月が一番分かりやすいよ。心配なんだろ?千早が桜子サマに喰われちゃうんじゃないかって。」
「なっ!!?ちがっ!!?」
「そうかなぁ。千早のことで頭がいっぱいって顔してるよ。……それに、イッチーも。」
「はっ?」
話の方向が俺に向いて、
俺はリョウに視線をやった。
「何でもないって顔してるけど、心ココにあらずってカンジ?」
「……そうだよ。悪ィかよ。」
「千早が来てから、まだそんなに経たないのにネ。」
その通りだ。
千早が『Baby Apartment』に入居してから、まだ1ヶ月も経っていない。
「…こんなことなら、行くな、とでも言えば良かったですね。」
そう香住が呟くと、リビングは再び静かになって。
テレビの音だけが響いていた。
行くな、と言っていたら、
こんな複雑な思いもせずに済んだのだろうか。