玄関の扉を開けると、不機嫌な私とは対照的に笑顔の桜助がそこにいた。
「お邪魔しま〜す。」
「ちょっ!勝手に入らないでよっ!!」
「いいじゃん!いいじゃん!」
桜助は何の躊躇いもなく、ズカズカと中へ入っていく。
「うわぁっ!マジでゴミ屋敷じゃねぇ!片付いてんじゃん!」
……まったく勝手な男だ。
桜助の背中を見つめて、私は心の底からそう思う。
制服のままの桜助はソファーにカバンを投げ出すと、部屋の中を見渡した。
「あれ?ペットは?」
「……知らない人はダメっていうか……あっ!噛み付くことあって危ないから。別の部屋に。」
「そうなの?……でも、全然匂いしないんだな。」
「え?」
「昔、俺も家の中で犬飼ってたけど、けっこうするんだよ。獣臭っていうの?」
……ッ面倒くさい。
「ウチの子は綺麗なの。金には困らないから、その辺の犬とは訳が違う。」
「おぉー、さっすが“翼サマ”。」
………嘘をつくのって、すごく疲れる。
でも、桜助と話してると余計に疲れる。
“翼サマ”、か。
触れられたくないことの一つや二つ、誰にだってあるんだ。
必要のない他人の詮索や好奇心ほど鬱陶しいものはない、と私は思っている。