紅茶を飲み干すと、歩美は慌ただしく身支度を整えた。
まるで食い逃げだよ、と思ったが、もちろん口にはしなかった。
私は駅まで歩美を送ると、「バイバイ」と言って別れる。
忙しそうに駆け出していった歩美は、人込みに紛れてすぐに見えなくなった。
駅に背を向け、私は歩きだす。
「最近、翼って甘いもの好きだよねぇ〜。」
ケーキを口にしながら歩美が言っていた言葉を思い出す。
「生活に甘さが足りないからじゃない?」
……ごもっともですよ。歩美サン。
ジンがいた頃の生活が甘すぎたのかもしれない。
男っ気も、色気もない、干物生活。
おいしい食事をとることにのみ注ぐエネルギー。
考えて、思わず溜め息を吐き出す。
何だかなぁ。
私は、未だにジンがいない生活に慣れないよ。