「先生は、おっしゃいました。我が子の緊急時にも顔を出せないなら国の総理である必要などない、と。」
……今さら、じゃない。
「後悔されておられます。美空様と翼様に何もして差し上げられなかった事を、本当に……。」
観月さんは、また涙を流す。
その時、私の手を握っていた手がピクリと動いた。
私の心臓が飛び跳ねる。
擦れたような唸り声とともに、男はゆっくりと起き上がった。
「先生っ!」
「あぁ…すまない。眠ってしまったようだ。」
「翼様の意識が戻られましたっ!」
次の瞬間、私と男の目が合った。
手と同様に額に刻み込まれた皺、
想像していたよりもずっと疲労しているように見えた。
清潔感を意識して整えられたであろう髪もボサボサ。
ネクタイも歪み、目尻は赤くなっていた。
ママが愛した男、私の父親。
本宮貴一郎は、安堵したように微笑した。
「……大きくなったな。」
私は、思わず目を逸らす。