「名前は?」
男が、私にそう尋ねたのは、私がキッチンで洗い物をしている時だった。
「川野 翼。」
「ツバサちゃん、か。いい名前だね。
こんな豪華なマンションで一人暮らし?」
「元々は母と……今は一人。」
「…そっか。」
少しずつ近づいていた男の声が、振り返ろうとした時にはもう背後で聞こえた。
私は、後ろから男に抱きしめられて身動きがとれなくなる。
「……何のつもり?」
「だって、そういうコトでしょ?」
男は私の身体から手を離すと、上半身だけ服を脱いだ。
………ふざけんな。
身体の中の血が頭に上っていくのが、自分で分かる。
「何を勘違いしてるのか知らないけど、“そういうコト”なら今すぐ出てって。」
私の声は、恐ろしく冷静に響き渡った。
バカバカしい。
こっちは100%善意で行動しただけだ。
大体、いくら顔が良くても、ゴキ○リ退治もできない男に興味はない。