駅で歩美と別れて、私は自宅であるマンションを目指す。
降り続く雨は冷たく、息を弾ませて走った。
それほど遠くない道程なのに、こんな日は遠く感じる。
ビシャッ、ビシャッ、と水溜まりを踏みつける。
もう、けっこう雨に濡れてしまっているのだから、
この際走っても意味がないんだろう。
戦意喪失で立ち止まる。
荒い呼吸を整えていると、そこがカフェの目の前だったことを知る。
今日も、すでにカフェは閉店していた。
ジンと出会ったのも、
雨の夜だった。
あの時も、カフェは閉店した後だった。
まだ桜は咲き始めたばかりで、二人並んで雨宿りをした。
私は桜助にフラれた日、
ジンは薄着で裸足。
……まさか、カレーライスが原因でケンカして飛び出してきてたなんて。
子供っぽい所と大人な顔の両方を持つジンらしいな、と思った。
― 「忙しすぎて気づかなかった。東京でも星は見えるんですね。」
………もうすぐマンション……早く、帰ろう。