途方に暮れてしまうような会場列を乗り越えて、自分たちの座席へ辿り着く頃には、
私はもうすっかりヘトヘトだった。
「ヤバ〜い!一階席なんだけど!」
歩美のテンションは下がるどころか、上がりまくっている。
前方には右にも、左にも、そして目の前にも大画面のモニター。
ぱぁっと装飾されたセットとステージ、また後方にもステージ。
超金かかってそう…、と私は呆気にとられる。
歩美が大ファンの『HONEY』というアイドルグループは、そんなにスゴいのか?
ドームを満員って…。
そんな事を思っていると、会場が暗くなった。
「始まるよっ!」と言って立ち上がる歩美に連れて、私も立ち上がる。
流れだす音楽、まばゆい光を散らしたステージ、まるで悲鳴のような歓声。
まるで別世界だった。
呆然と立ち尽くしていると、大画面に浮かび上がる5人のシルエット。
流れる音楽のメロディーが変わって、画面には文字が浮かび上がる。
“キュートな小悪魔美少年・若槻 岬”
その瞬間、会場が揺れるような歓声。
……“キュートな小悪魔美少年”??
私にとっては、はっきり言って意味不明だ……。