「仁は料理上手なんだよ。
……上手く行かない、歩み寄ろうともしない、おまけに俺は一人でやっていきたいって言ったんだ。あんな新入り連中とは、やってけねぇって。」


「…………。」


「あの夜は、仁がカレーライスを作ったんだ。甘口で、トッピングは半熟卵のカレーライス。
けど、俺はトッピングはチーズじゃねぇと許せねぇんだよ。新入りは激辛がいい、カレーライスにはマヨネーズだろ、トッピングは納豆とキムチだ……、ってバラバラ。
また殴り合いになって、その勢いでカレーの鍋がひっくり返って、
ついに仁がキレた。」




そこまで喋ると、沢崎さんは大きく息を吸い込んでから声を上げた。







「うわあぁぁぁーーー!!!カレー!!カレー!!カレぇぇぇーー!!!」



頭を掻き毟りながら叫ぶ沢崎さんに、私は驚いて肩を揺らした。





「……そう言って、仁は飛び出して行ったんだ。
責任感とか、プレッシャーとか…余程、ストレスで病んでたんだろうな。
俺も反省してさ、大人げなかったって。
仁を探して、
やっと見つけた時には女子高生と同棲してんだもん、参ったよ。」






私は俯いた。






私は本当に何も知らないんだ。



仁が人をまとめる、とか…料理上手だ、とか。








何も、知らない。