「本宮貴一郎、この国の総理大臣。
……バカみたいでしょ。本宮サンにはね、大学生の息子サンと娘サンもいるの。
………本当、バカみたい…。」
「ツバサちゃん…。」
「…ママは、バカだよ。どんなに待ち続けたって王子様は迎えに来なかった。」
テーブルの上の、カップのミルクティーはすっかり冷めてしまった。
虚ろな瞳で、それを見つめていた私に、ジンは突然口を開いた。
「…“翼”って、いい名前だよな。」
「え?」
「お母さんが付けてくれたの?」
「……ママの名前が“美空(みそら)”だから。
“美しい空を羽ばたく鳥のように、翼を広げて飛び立てるように”って。」
「ツバサちゃんは、お母さんの宝物なんだね。」
「…………。」
「王子様は迎えに来なくても、ツバサちゃんに出会えた人生は幸せだったんじゃないかな。」
「…………。」
「それに、家来を来させるだけ上等だよ。…こんな広い世の中で、少なからず誰かが誰かを思ってるんだ。
その形は人それぞれだけど、それもまた一つの愛なんじゃないかって信じていたいじゃん?」
私は、何も言えなかった。
ジンの言葉は酷く不器用だったけど、氷のように冷たく横たわっていた私の中の何かが、静かに溶かされていく気がした。
…ヤバイ。泣きそう。