菊りんのネクタイは、やっぱりいつもサイズが可笑しい。
それに、柄だって。
この間のカエル柄の上を行く、今日はバナナ柄だ。
一体、どこで買ってるんだ……?
いくら何でもセンス悪すぎる…。
この、実は意外と生徒思いの独身教師の為に、卒業するまでに言ってやろうか?
先生のネクタイ変、とでも。
そんな事を考えているとは夢にも思っていないだろう菊りんは、確認するように言った。
「本当に、これでいいんだな?」
「はい。」
あたしの返事を聞いて、菊りんはもう一度、視線を落とす。
つい先程、あたしが提出した進路希望のプリントにだ。
菊りんは、ほっとしたように笑う。
「まさか、蒼井の進路に悩まされる事になるとは思ってなかったが、決まって良かったよ。」
……あたしも、こんなに悩む事になるなんて思ってなかったよ………。
職員室の白々しい蛍光灯の下。
これで、放課後の個人面談から解放される。
あたしも、ほっとして胸を撫で下ろした。