「こんにちは。」
言いながら、あたしは店内へ入った。
今日も、客は一人もいない。
フジコさんは、煙草を片手に微笑んだ。
「アイスティーでいいかい?」
「はい。」
半分ほど短くなっていた煙草を、銀色の小さな灰皿の中で消すフジコさん。
バタバタと走ってくる足音がして、奥から太一が顔を出した。
「エリ!おせぇぞ!」
「……まさか、今日も?」
「当たり前だろ!早く、早く!!」
「ちょ、太一っ!」
あたしの手を引いて、外へ連れ出そうとする太一。
空いている方の手には、太一の身長に合っていない虫取り網。
そんな様子を見ていたフジコさんは、笑いながら言った。
「アイスティーは、戻ってきてからだね。」