壁に掛けられた時計を見上げれば、もう1限が始まっている時間だった。
……どうでもいい、心の内でそう呟いて、あたしは図書館の本棚を一つ一つ見て回る。
読書は嫌いじゃなかった。
でも、どの本にも心を動かされない。
本に手を伸ばしては、簡単にパラパラと捲って、また本棚に戻す。
その繰り返し。
あたしは、また溜め息を吐き出す。
まえに、美帆が言っていた。
溜め息の数だけ幸せが逃げちゃうんだよ、と。
それが本当なら、あたしには幸せなんて、もう微塵も残っていないだろう。
ふと、絵本のコーナーで足が止まる。
白雪姫、シンデレラ、人魚姫、かぐや姫。
みにくいアヒルの子、赤ずきん、長靴をはいたネコ………。
どれも、小さい頃に読んでもらった。
白雪姫だとか、人魚姫だとか。
お姫様に憧れたり、大きくなったら王子様が迎えにきてくれる、
なんて疑いもせずに夢を見ていた小さなあたし。
………はっ…バカらし。
あたしは、心の中で嘲笑う。
誰も来てくれないよ、アンタになんか。
現実は、おとぎ話のようにロマンチックでもなければ、劇的でもない。
現実は、甘くない。
“幸せに暮らしましたとさ、めでたし、めでたし。”なんて、有り得ない。
………んっとに、バカみたいだ。