行くあてもなく、目的もなく、あたしは歩いた。
何もする事がないし、何をしたいとも思わない。
けれど、自分は今、小さな自由を手に入れた。
そう思うと、少しばかり心も軽くなる。
どこへでも、行けるんだ。
……でも、あたしは18年も“蒼井エリ”をやっているから知っている。
自分の性格を嫌という程。
どこへでも行ける自由を手にしたって、あたしは結局どこへも行かれないのだ。
真面目なだけの優等生が、慣れない事をしているわけだ。
行く場所なんて、たかが知れている。
大体、こんな廃れた田舎町で行動範囲なんて狭いもの。
そんなあたしが足を運んだのは、ダサい事に町立図書館………。
さすがに、自分で呆れてしまう。
自動ドアを抜けると、館内は程よい冷房の風に満ちていた。
この時間、学生の姿はなく、母親と幼い子供や老人ばかり。
セーラー服なんて着てるのは、勿論、あたし一人。
それでも、彷徨うように歩き続けるよりはマシだった。