それがいいものでも悪いものでも
捨てることは出来ない。


たとえ捨てたとしても
どこかで結局はまた拾ってしまうだろう。




『だから、どうせならそれを使って楽しんでみればいい。…最大限に楽しんで、もっと大好きになればいいんだよ。それを周りがバカだと言うんならそれで上等じゃん』



日向先輩はそう笑った。




――この人と同じ立場にあったとしたら

俺は誰かにこんな言葉を掛けられるかな。


こんな風に笑えるかな。






『なぁ、大地』


日向先輩は笑顔をやめて、ふと真剣な目になった。

ちょっと真面目な顔。
時折見せるその横顔は、柚先輩に少し似ていた。




『正直に言うとさ』

『…はい』

『来週の、引退試合。俺の最後の大会。あれに出られれば…あれにさえ出られたら、もう死んでもいいぐらいに思ってた』




胸が激しく痛んだ。

咄嗟に言葉が出てこなくて、
何を言ってもダメな気がして、
思わず俯いて口を噤んだ。




――けど






『けど、それは間違いだな』






顔を上げた。

先輩は静かに笑っていて、だけどその瞳は少しだけ切ない色をしていた。



『間違えてた』