「カズキぃ。」
「ん?」
「桜ぁ、咲いてない。」
「えっ?あぁ、いま十二月だよ。」
見上げれば、寒々しい枝を晒す桜の木々。
「桜ぁ」と、若干怪しくなってきた呂律のヒメが背中でジタバタする。
「ちょ!?落ちるから止めろって!!」
「カズキ!」
「なんだよ!!」
「春になったら、お花見しよぉよ。」
「花見?」
「うん!うまい酒飲むぞぉ!」
「いや、俺、酒飲めねぇし。」
俺のツッコミを完全に無視してヒメは身を乗り出し、桜の木に手を伸ばそうとする。
「だぁから!あぶねぇっつーの!!」
「カズキぃ。」
「なに!!」
ヒメは、俺の首に腕を絡めて耳元で言った。