半袖のワイシャツの袖を
更に捲りあげて、
カバンを肩に掛け直す。
 
陸の方をチラッと見ると、
まだズボンの丈をなおしている。
 
 
出し抜くなら今だ。
 
心の中でカウントが始まる。
 
 
3、2、1……。
 
 
ふぅっと息を
吐き出して石段に足を掛けた。
 
 
――Ready…….
 
 
 
「ごぅっ!!」
 
 
 
つまさきに力を入れて
一気に駆け上がり出す。
 
 
「あ―!!志津フライングだぞ、それ―っ!!!!」
 
 
ふいを付かれた陸が、慌てて叫ぶ。
 
 
「うっさい!! サッカー部の意地見せてみろやーっ」
 
 
だらんと垂れていた赤いリボンが、
胸元で揺れるのが視界の端で見えた。
 
 
石段を登るたび、
ダンダンダンと重い振動が脳天に響く。
 
 
登っても登っても終わりが
見えない段数の多さに、思わず笑えてくる。
 
 
陸もようやく駆け上がり始めたらしく、
うしろから足音が迫ってきた。
 
 
「スカ―トん中、丸見えだぞ―っ」
 
 
「ほっとけバカっ!!」
 
 
息を切らしながら振り向いて笑うと、
くわえているアイスが
だらしなく口の端から垂れてくる。
 
 
「志津汚ねぇ!!」と笑っている陸だって、
口の周りがアイスだらけだ。