夜になって降り始めた雪が、街頭に照らされてきらきらと光る。

夜の海は真っ暗で、静かに波打つ。

時々吹き付ける北風が冷たい。

テトラポットに体育座りをして小さく丸まる。


「……やっぱりここに居た」


白い息を吐きながら、テトラポットを見上げて制服姿の悠太が笑った。


「志津の駆け込み寺だな、ここは」


すぐに追いかけてきてくれたんだ。


「志津はさぁ、何かあると絶対にここに避難するんだ。昔っから」


テトラポットに積もった雪を払いのけ悠太が隣に座る。

押し黙ったままの私を覗き込むと苦笑いを浮かべた。


「さっきの。聞いてた?」


「……うん」


「そっかー」


真面目な口調に変わった悠太が言った。


「さっきの眼鏡の人、サッカーのU-18の日本代表監督」


「……ふうん」


さほど興味がないように適当に相槌を打った。

でも、心臓の鼓動は確実に早くなる。


「監督がわざわざこんな田舎まで来てくれたんだ。すごくない?」


悠太はゆっくりとした落ち着いた声でが、隠しきれてない。
体中から嬉しいオーラが溢れ出している。


――下手くそ。


悠太から目を逸らして、膝を抱え込む。



中学生の頃から恐れていた事が、現実になってしまった。

中学生の頃はまだ覚悟が出来ていた。悠太は中学を卒業したら町を出て、サッカーの強豪校へ進学すると思っていたから。


でも悠太はここに残った。私たちがいるこの町に。


だから、これからもずっと一緒にいられるんだって勝手に思っていた。
こんなの全部夢ならいいのに。
喉の奥がぎゅうっと詰まる。