「志津……」


苦痛な表情を浮かべた陸が、私の肩をぽんとたたいた。




私の事、嫌いだっていい。

迷惑って思っても、重いって言われてもいい。

今、笑顔で戻ってきてくれれば。

悠太が元気で笑ってくれるなら。


それだけでいい……それだけでいいよ。


「あれ」陸が小声で呟くと、はっとした表情になる。


「さっき……自転車で海に行ったって言ったよね……?」と陸が店の横側を指差した。


ふと視線を移すと店の横にワインレッドの自転車があった。


「なんで、ここに……」


私は慌てて自転車に駆け寄った。

自転車はまるで一晩中ここに居たような顔をしている。


「私……夢見てたの……?」



……全部夢だったの?




かごの中には地面に置いたはずの指定カバン。

でも、車輪には真っ白な砂が付いていた。


胸が熱くなる。

車輪に付いた白い砂を人差し指で触った。

指先に付いた白い砂は太陽に反射して光っている。


「夢じゃない……やっぱり悠太はここに居た」


陸の顔が苦痛に歪む。


「悠太は……きっと最期に……俺らに会いに来てくれたんだと思う」