「でも、今は今じゃない。志津、ちゃんと今の陸を見てあげないと」


「へ……」


心の内側まで見られそうな梢子の澄んだ瞳。

梢子が寂しそうに笑う。


「いつまでも悠太ばかり見ていたら……陸が可哀想だよ」


「ど、どういう意味?」


「……まあ、あとは志津次第でしょ」


そう言って私の肩を叩いた梢子から、シャンプ―の甘い匂いがした。


「じゃあまたね」


梢子がバッグを肩に掛けながら、優しく微笑んだ。

「またね」と、ぎくしゃくした笑顔を返す。


グラウンドを見下ろすと、陸が後輩のお尻にボ―ルを投げつけて爆笑していた。


やっぱり陸は陸だよ……いつまでもどこまでも陸なんだ。
悠太とは違う。


「全然違うんだよ」


夏の日差しが差し込む教室に、グラウンドから陸の笑い声が聞こえてきた。