「悠太、持って来たよ」


「おー、相変わらず渋いチャリだな」


自転車を受け取ると悠太がサドルに座る。


「やっぱ志津のじゃ小さいなぁ」


悠太が笑った。

私の身長に合わせてサドルを低くしてあるので、悠太が乗ると膝がやたらと曲がってしまう。


「そう?」


“小さい”と言われ、くすぐったい気持ちになる。

悠太との身長差を感じられることが嬉しい。

私が、女の子に見てもらえる唯一の瞬間だから。


「乗れ、志津」


「うんっ」


スカートを押さえて荷台にまたがる。


「では長旅になりますが……行くぞー」


最初の一漕ぎに力を込めて、悠太がペダルを漕ぎ出す。


「悠太、頑張って!全速力でねっ」


ペダルを漕ぐ悠太の背中に向かって声援を送る。


「言われなくても……」


車輪がカラカラという音を鳴らす。


「全速力でいくよ!!」


悠太は楽しそうに言うと、加速を始めた。