陸も弘人も、一応は受験生だ。
部活は6月で引退した。

……はずなのに。


「結局なんだかんだ毎日部活行ってるよね」


「息抜きなんじゃない?」


「引退した意味ないじゃん」


教室の窓の前に立った梢子の横に並んで、グラウンドを見下ろす。

白と黒のボ―ダ―のユニフォ―ムを着て走り回っている陸が嫌でも目に付く。


――こいつ、家でも勉強なんかしないんだろうな。


「よく見てろよっ!」


陸がドリブルしながら後輩たちに叫ぶ。

誰もいないゴ―ルに豪快にシュ―トを放つと、その勢いのまま走りこんで歓喜のバク転を披露した。

「すげ―!」と後輩たちは大歓声をあげている。

何やってるんだ、あのばか。
そんなことして怪我したらどうすんのよ。

本当、いつまでもガキだなぁ。と、苦笑いした。


と、


「ねぇ、陸って格好良くなったよね」


梢子がぽつりと呟いた。


その言葉は、静まり返った教室に投下された一種の爆弾のようだった。


「……え……えぇぇっ!?」


驚きすぎて目が飛び出そうになる。
思わず梢子を二度見してしまった。正気の沙汰とは思えない。