当初父は
 
「都会で一人暮らしなんて危険過ぎる!それよりも役場の職員試験を受けてみたらどうだ?な?」
 
と猛反対していたけど、母と3つ年上の兄、壱斗(いちと)の絶妙なフォロ―によって、なんとか許しを得ることができたのだ。

 
兄は“長男だから”という理由だけで、地元に残り電器屋を継ぐ道を選んだ。
 
 
――私はそんなのは嫌だ。
 
お兄ちゃんみたいになりたくない。
早くこの町を出て行きたい。
 
 
でも……都会に行って、結局私は何がしたいんだろう?と思考回路が絡まり始めた時、吹いた生暖かい風が教室のカ―テンを揺らした。
 

膨らんだカ―テンの中から、真っ青な海が見えた。
 
 
横から陸のいびきが聞こえる。
 
 
ふと目をやると机に突っ伏して、気持ち良さそうに寝ていた。

陸とは子供の頃からずっと一緒にいたけれど、志望校も違うしこの先はきっと別々の道を歩むことになる。

自分の進もうとしている道は、本当に正しいのかな。

気が付けばプリントの端っこに、視界不良、五里霧中、暗中模索と走り書きしていた。


四文字熟語は完璧かもしれない、と苦笑いした。