プリントを配った後
 
「志津達だけじゃないぞー、お前たち全員最近だらけてないか?」と先生が熱弁を振るい出した。
 
陸は話が逸れてラッキ―とばかりに、うたた寝を始めている。
 

遅刻してきた上に居眠りかよ!
 
 
だらけきっているのもここまできたら立派といえるだろう。
 
ちなみに私たちがだらしないのは昨日、今日始まった事ではない。
 
毎日、毎秒、17年間、ずっとだらけている。
 
高校だって、受験らしい受験をして入学した訳ではないし。
 

「こんな田舎に居たら誰だってだらけるよー」
 
 
と私達が言うと、先生はいつも決まってこう言う。
 
 
「そんな事はないだろう。お前らも“アイツ”を見習え」
 
 
 
――その言葉を出すのは、ずるい。
 
 
 
アイツはこの町唯一の誇りだ。
 
 
そんなこと言われたら誰だって素直に「はぁい」と言うしかないじゃないか。
 
 
今日も先生はアイツの話をしている。
 
 
弘人が欠伸を隠そうともしないで「よくもまぁ飽きずに毎日同じ話が出来るもんだな」と呟く。
 
 
「アイツがあんなに頑張ってるんだ。お前らだって頑張れるはずだ! 全員合格
目指すぞ! じゃあプリントの設問1から……」
 
 
先生の熱いお説教は、どうやらゴールテープを切ったらしく、気がつくと五段活用の話が始まっていた。

しかし、一度アイツの話をされると、
私の頭の中はなかなか、切り変わらない。
 
つい、考えてしまう。
 
 
頑張れるのかな、私。
アイツみたいになれるのかな……。
 
 
私はため息をつくと、シャ―プペンをくるくると回し、相変わらずやる気のしない古典の問題を解き始める。
 
今日の問題はいつもよりも難しく感じる。