「ばかめ! ははははは」


首根っこを掴んだまま、陸が高笑いする。


「あのさ」


真顔で悠太が唐突に呟いた。


「裏山に行きたいんだけど……」


ふたりが、ぽかんとして悠太を見つめる。


「……なに?」


悠太が不思議そうに笑う。


「いや、裏山なんて珍しいなーって」


「俺らもずっと行ってねぇよ」


陸の手が緩んだ途端、さっと逃げる。

危うく首の筋をつるところだった。


陸が「ちっ」と志津を睨みつける。


「何で裏山なんか行きたいんだよ、悠太は」


ズボンに付いた砂を払いながら、悠太がテトラポットの上に立ち上がる。


「星が見たい」


空を指差した。


「うーわっ。英国紳士はロマンチストだねー」


冷やかした陸がテトラポットから飛び降りる。

続いて悠太も「まぁね」と道路に着地した。

「わわわっ」と私も慌てて飛び降りると何とか着地できた。

私が無事着地したのを見届けると、陸が歩き出した。

嫌な予感がして立ち止まる。


「本当に裏山行くの?」

「俺も久々に星が見たくなった」

「えー、ここでも十分きれいじゃん!」

「志津は待ってていいよー」


陸がひらひらと手を振る。

志津の顔が歪む。

夜の裏山は苦手だ。
真っ暗で怖いし、虫も多いし。


っていうか……嫌な思い出もあるし。


ひとりで考え込んでいると、ふたりの背中が遠くなっていた。


「……っ!」



――待ってるなんてもっと嫌に決まってる!!!