【世界最強のゴーレムマスターバブ】~前世、親に恵まれなかった僕、異世界に転生したら優しい家族に囲まれて幸せなので恩返ししたい~

「ふふん♪ 僕の作った大要塞は無敵なんだ!」

 テレビの画面に映っているのは、どんどん侵攻してくるモンスターと、それを迎え撃つ大要塞だった。

 大要塞からは魔法や矢が飛び、次々とモンスターを仕留めていく。

 魔法で仕留めきれなかったモンスターも精鋭のナイトゴーレムたちがバッサバッサと切り捨てていった。

 そしてテレビの画面に現れるゲームクリアの文字。

「やった!」

 もう何度見たかはわからないけど、やっぱり達成感があるね。

 達成感に酔いしれていると、玄関が乱暴に開かれる音が聞こえた。

「ッ⁉」

 思わず時計を見てしまう。

 時計の針は、午後二時を差していた。

 早い。いくらなんでも早すぎる⁉

 そこからの僕の行動は早かった。

 もう型遅れのゲーム機の電源を切ると、ゲームのディスクをそのままに、ゲーム機をテレビの下の戸棚に隠そうとしたところで部屋のドアが乱暴に開かれた。

「ひッ!」
「んだ? 鉄平、またお前ゲームやってたのか? あん?」
「は、はい……」

 ゲーム機を持ったまま振り返ると、お父さんがいた。お酒に酔っているのか、顔を赤くしている。しかも、またパチンコか何かで負けたのか、とても不機嫌そうだった。

 お父さんは大股で近づいてくる。

「いいご身分だなあ、鉄平? 俺がこんなに苦労してるってのに……よッ!」

 殴られたということが、いつの間にか横になった視界でようやくわかった。

 遅れて、側頭部がドクドクと脈打ち、熱さを感じる。

「お前も苦労しろってんだッ!」
「ごはッ⁉」

 お父さんにお腹を蹴られて、朝食べたものを吐き出してしまう。

「きったねえな! それに、もったいねえ! 誰のおかげで飯食わせてもらってると思ってんだッ!」
「ッ⁉」

 僕に馬乗りになるお父さん。そこから始まるのは、逃げ場のない暴力の連続だ。

 遅れてきた痛さに涙が出て、視界が歪んでいく。そんな涙も殴られた衝撃で飛んでいった。

 今日は長いなぁ……。

 殴られすぎたのか、頭がぼんやりとする。まるで痛みもないし、現実感もない。

 視界の端から、だんだん黒く染まっていく。

 最期に見た光景は、お父さんが拳を振り上げる瞬間だった。


 ◇


 ぼんやりとした意識が覚醒する。

 まるで寝ていたみたいだ。

 開いた視界はぼんやりとしており、茶色い天井が見える。

 ここはどこだろう?

 起き上がろうとするけど、体に力が入らない。

 目だけを動かして辺りを見渡すと、どうやら僕は木の柵の付いたベッドの上にいるらしい。

 僕の家にはこんなものはなかったはず……。

 頭の中で記憶を遡っていくと、お父さんに殴られた記憶からプツンと途切れていた。

 ここは、もしかして病院って所なのかな?

 でも、お父さんもお母さんも僕を病院に連れて行くとは思えないし……。

 それにしても、なんだかゴワゴワな布だなぁ。肌がヒリヒリしちゃうよ。

「んあーう?」

 しゃべろうとしたら、呂律が回らなくて変な声が出た。

 もしかして、殴られすぎて喉が壊れちゃったのかもしれない。

「あぅ?」

 視界の端に何か映った。

 それは、ちっちゃな手だった。まるで赤ちゃんの手みたいにぷにぷにだ。

 でも、その手が僕の思い通りに動く。

 どういうこと?

 そんなことを考えていると、ぼんやりとした視界の中で何か大きなものが現れた。

 人、だろうか? なんだかとても大きな人みたいだ。

 その人は、僕を軽々と抱き上げる。

 抱き上げたことで、距離が近くなってぼんやりとした視界でも見えるようになった。

「あうー?」

 黒い髪の女の人だ。高校生、十七歳くらいだろうか? 僕より年上だね。

 でも、女の子はとても大きい。僕の足は女の子のお腹辺りまでしかないみたいだ。

 これにはバカな僕でもさすがにおかしいと気づかされた。

 もしかして、僕……赤ちゃんになってる⁉

「ほあああああああああああああ⁉」

 突然騒ぎ出した僕を、女の子はあやすように抱っこしながらゆらゆら揺れる。そして、歌を歌ってくれた。

 でも、僕の知ってる歌じゃないし、僕の知らない言葉だ。

 この人は誰なの? ここ日本じゃないの?

 僕の頭の中はハテナでいっぱいだ。

 そんな僕を見て、女の子は笑顔を浮かべると、近くにあった粗末なベッドに座って僕を膝の上に座らせる。

 その時、自分の体を見下ろしたけど、腕も脚もぷにぷにで短い。もう完全に赤ちゃんだ。

「クラーク」
「お?」

 気が付けば、僕は再び女の子に持ち上げられ、口に何かが入ってきた。

 これって……?

 僕の疑問をよそに、体は本能に従うように口に含んだ何か吸い始める。

 おいしい……?

 僕は何をしているのだろう?

 でも、見上げた瞬間、すべてがどうでもよくなった。

「クラーク……」

 女の子が、それはそれは幸せそうに目を細めて僕を見ていたからだ。

 僕は、人がこんなに幸せそうな顔をするのを初めて見た。

 僕がいる。ただそれだけでこんなにも嬉しそうな、幸せそうな顔をしてくれる人がいる。その表情を見ているだけで、なんだかすぅーっと僕の中にあったわだかまりが解けていくような気さえした。

 僕まで幸せになる笑顔だ。

「たぁーい!」

 気が付けば、僕も笑っていた。

 この女の人は信じられる。心の底からそう思えた。


 ◇


「けふっ!」

 ちょっと恥ずかしいお乳の時間も終わり、女の子は僕の背中を叩いてゲップさせてくれた。

 お乳をくれたということは、この女の子が僕のお母さんなのだろうか?

 そうだといいなぁ。

 そんなことを思っていると、コンコンコンッとノックの音が飛び込んできた。

 女の子が返事をすると、狭そうに体を屈めてドアから入ってきたのは、濃い赤髪の大男だった。女の子の倍は言い過ぎでもそれぐらいありそうな大きな男だ。ボサボサの髪とモジャモジャのヒゲで顔はわからない。

 もしかして、強盗⁉

 そう思ったけど、女の子は笑顔で大男に対応していた。

 強盗じゃない……? もしかして、この人が僕のお父さんだったりするのかな?

 女の子は、誇らしげに大男に僕を見せつけるようにした。

 大男が僕に向かって手を伸ばす。

 殴られる⁉

 父親かもしれない。そう思うと、反射的に目を瞑って体を固くしてしまった。

 そうして目を瞑っていると、ガサガサの、でも温かいものが僕のほっぺに触れた。

 これは何だろう? もしかして、殴られない?

 意を決して目を開けてみると、父親らしき大男と目が合った。その目はとても穏やかで、でも、何かに怖がっているように見えた。

 そして、とても繊細な手付きで僕の頬やおでこを静かに撫でる。

 こんな大きな男の人が、僕なんかに怖がってる?

 そして、大男は僕から手を離すと、心底ホッとした表情を見せた。

 もしかして、僕が赤ちゃんだから、泣き出さないかビクビクしていたのかな?

 そう思うと、途端にこの大男がかわいく見え始めた。

 すると、僕と同じことを思ったのか、女の子が大男に笑いかける。

 大男は照れた様子でボサボサの頭を掻いていた。そんな様子もかわいらしい。

 暴力的は雰囲気はどこにもない。ただただほほえましい優しい雰囲気がそこにはあった。

 その中に僕がいる。そのことがとても幸せなことだと思ったんだ。


 ◇


 その後、女の子と大男は後ろ髪を引かれるような様子で僕をベッドに置いてどこかに行ってしまった。なぜかそれだけのことで心が凍えそうなほど寒くなる。

 僕は気を紛らわせようと辺りを観察しようとするけど、ぼやけた視界では何が何だかわからない。自然と意識は僕の内側へと向かっていく。

「んあ?」

 そして、気が付いた。

 何かが僕の中にある。

 おへその少し下の辺り。そこになにか熱くて硬い何かを感じた。それは日本にいた時にはなかったものだと思う

 これって何だろう?

 好奇心で意識を向けてみると、硬いけど少しだけ動くようだった。

 もしかして、変な病気なのだろうか?

 怖くなって、僕は自分の体から出て行けとそれを動かし始める。

 すると、硬かったのは最初だけで、まるで粘土のようにそれは動き始めた。

 ちょっと怖いけど、お腹から出ていけと押し続ける。

 ちょうどお腹から出た瞬間だろうか。僕はお腹に違和感を感じた。

 恐る恐る視線を下げて確認してみると、僕のお腹には砂が山盛りになっていた。

「おうあ?」

 何で砂?

 でも、僕は何かに魅入られたようにお腹の上で山になっている砂を眺めていた。

 すると、不思議な感覚を得る。

 なんだか僕とこの砂の間にはラインのようなものが繋がっているような、砂のことがわかるのだ。

 そしてもう一つ。この砂がなんだか動かせそうな気がしてきた。

「てあ!」

 試しに砂を動かしてみる。

 なぜか僕が思い描いたのは、『ガード・ゴーレム』に登場する壁ゴーレムだった。

 すると、僕のお腹の上の土は意志を持ったように動き出し、思い描いた通りの壁ゴーレムになった。

「おう⁉」

 これには僕もビックリだ。

 でも、僕のお腹の上には、サイズこそ小さいものの、たしかに壁ゴーレムの姿があった。

 しかも、壁ゴーレムは僕の思った通りに動く。

「おぉおー!」

 僕は心は感動でいっぱいだった。

 だって、僕が大好きなゲームのキャラクターが、サイズこそお人形みたいだけど創れたんだ。

 しかも、僕の思い通りに動く。奇跡だ!

 この力って、もしかして魔法なの⁉

 僕は嬉しくなって、次々とお腹の中の力を使って砂を生み出していく。どうやらお腹の中の力は、体の外に出すと勝手に砂になるらしい。

 そして、僕はその砂を使ってどんどんお人形サイズのゴーレムを創っていく。

 普通のゴーレム。ショットゴーレム。ガードゴーレムなどなど、思いつくがままに創っていくと、なんだか体が寒気を感じて眠くなってきた。

 気が付くと、僕のお腹にあった力はなくなっていた。どうやら力を使い尽くすと寒気がして眠くなるらしい。

「あぅー……」

 僕は抗うこともできずにそのまま寝てしまった。