(え? これどういう状況?)
図書準備室の扉の向こうで、有名なクールインテリ系イケメンの先輩が、参考書の山に埋もれて号泣していた。
これが、月曜日のこと。
□
(え? これどういう状況?)
気付くと俺は、彼の膝の上で頭を撫で回されていた。
これが、火曜日のこと。
□ □ □
月曜日の朝まで時間を戻そう。
高校1年生の二学期の初め。今日の俺は少し緊張していた。
正門を入ってまず最初に視界に飛び込んでくるのは、一軍陽キャグループの一団だ。彼らは芸能人のような容姿をフル活用して、派手な見た目に派手な振る舞いで常に周囲からの注目を集め続ける。女子たちは彼らを見て大声でキャーキャーと騒ぐ。
俺なんかは一生関わることのない種類の人間だ。
それとは別の界隈で、静かに一定数の視線を捉えている人物もいる。
一軍の彼らと変わらない……いや、ひょっとすると上回るくらいの顔の良さでありながら、他人を寄せ付けない鉄の仮面を被り、成績は常にトップクラス、華やかな男女交際には目もくれず、空き時間は数人の成績上位組と静かに談笑して過ごす。
校内きってのクールインテリイケメンと噂される彼を見て女子たちは、小声で密かにキャッキャと盛り上がる。
こちらも俺なんかは一生関わることのない種類の人間だ。
……と思っていたのだけど。
入学してすぐの委員決めで、俺は図書委員になった。
真面目そうという単純な理由でまだ名前も覚えていない誰かに推薦されて、断る理由もないのでそのまま引き受ける形になったのだ。別に委員会がやりたかったわけではないのだけど、もしまかり間違って飼育委員などになってしまった暁には、1年生の1年間を地獄の底で過ごすことになるため、何でもいいから他の委員になっておきたいというのもあった。
その図書委員会に例の彼――クールインテリイケメンと噂の2年生・古倉詠心先輩――がいた。
おぉー有名な人だー。すごーい、かっこいいー。と思って見ているうちは呑気なものだったけど、二学期の放課後当番でペアになると決まった時はさすがに「え?」と思った。
中学までをひたすら真面目に地味に素朴に生きてきた俺には、ちょっとハードルの高いペアではないかと……。
とはいえ決まってしまったものは変えられない。当番は月・火の放課後だけだし、日によっては司書の先生がいることもある。何より有名な先輩と交流できるというのは、学生生活の中で何かの経験値になるに違いない。
というわけで、緊張を覚えながらも前向きにその日を迎えることとなった。
□ □ □
そして迎えた当番初日のこと。
うちの放課後当番は、規則上はホームルームが終わった者から図書室に直行するということになっているのだけど、事実上は下級生が上級生よりも先に到着して清掃などを済ませておかなければならないという暗黙のルールがあるため、放課後までは内心気が気じゃなかった。
一学期に当番をしていた同学年の子にきいてみたところ、
「2・3年生は1年が先に来て準備してるのが当然だと思ってるから、いつも社長出勤みたいに遅〜く来るよー」
と言うので、どんな学校だよとは思いつつもむしろそのほうが有難いぐらいまであった。
何しろあの古倉先輩はきっちりしてそうだから、社長出勤なんてことはしないですぐに仕事場に向かいそうだ。もちろんそれは立派なことなんだけど、そうなると俺の立場が危うくなる。先輩よりも遅れて来る生意気な1年生になってしまう。
しかしそんな心配は杞憂だったようで、幸運なことにこの日のホームルームは異常なまでに早く終わった。
これならまず間違いなく先輩よりも先に図書室に到着できるだろう。清掃とカウンター準備まで完遂できるかもしれない。ひとまず第1関門はクリアだ!
こうして多少の安心と、しかしまだ続く多大な緊張を胸に、俺は図書室へと向かった。
ちょっと怖そうだけど、良い人だといいな。
□ □ □
図書室に着くと、まずは荷物を置くために最奥の図書準備室に向かった。扉の近くまで来たあたりで、何か物音がしたような気がして立ち止まる。
図書室と図書準備室の間に窓はないから中の様子はわからないけど、なんか人の気配がするような……?
(もしかして、ペアの先輩、先に来ちゃってる?)
まさかうちのクラスよりも更に驚異的な早さでホームルームが終わったのか? 余裕だと思っていた分、一気に不安が押し寄せる。
重くなった足取りで扉の前まで来ると、……扉が少しだけ開いていることに気付いた。だから物音が漏れ聞こえていたのか。ノブに手をかける直前。隙間から扉の向こうを見るともなしに覗いてしまった、瞬間――。
「うわあぁぁんもう勉強ばっかり嫌だよぉぉ。好きなだけ本読んで好きなだけ寝たい……。友達つまんないし女子ぜんぜん話しかけてこないしこの生活なんなんだよぉぉ。メロちゃんとモスくんモフモフして癒されたいぃいうわあぁぁん……」
………………
………………
………………え?
(え? これどういう状況?)
何も見なかった、何も聞かなかったことにして引き返すべきなのだろうか?
頭ではそう思っても、足が硬直してしまってその場から動けない。
なんだかわからないけれど、なんか今とんでもなくまずいことになっている。
そして……――。
そうしているうちに、細く開いた扉の向こう、号泣していた『彼』の真っ赤な目が、何かに気付くようにこちらへと向けられる……。
――目の前の扉が開かれた。
「……――」
初めて、こんな間近でその人を見た。
俺よりも頭ひとつ分は背が高く、雑誌で見るモデルのようなシルエットで、切れ長の目は赤く潤んでいてもなお理知的で、これまで出会った誰にも見たことがなかった不思議なオーラがあって……
(すごい……本当に、かっこいい……――)
目の前のその人に、俺は完全に圧倒された……。
……ん?
ちがう。そんな場合じゃない。
今これどうするのが正解? 詰んだ? 死んだ?
何も言葉が出せずただ見上げるしかなくなっている俺に、彼は普段見せている通りの冷たい眼差しで、小さく口を開いた。
「……どのへんから見てた?」
もう、正直に答えることしかできない。
「……参考書の山に埋もれて、『うわあぁぁんもう勉強ばっかり嫌だよぉぉ』と号泣されてたあたりからです」
俺の返答を聞くと、先輩は頭を抱えてしまった。
「…………人に言わないよね?」
「言わないですし言ったとしても誰も信じません」
「……きみそういうタイプの子か」
「?」
諦めたように準備室の奥まで戻ると、先程まで自分が埋まっていた席につき、俺にも椅子を勧めた。もはやどうすることもできないので素直に座る。
「言っとくけどきみが来るのが早すぎるのが悪いんだからね? どんだけ早く見積もってもあと5分は余裕だと思ってたのに」
「すみません。担任によく言っておきます」
「言わなくていい!」
「すみません」
「……僕は、高校デビューに失敗したんだ」
先輩は俺から目線を外すと、ぽつりぽつりと話し始めた。
「え? できてるじゃないですか」
「僕は一軍陽キャグループになりたかったんだよ。でも流行りとか疎いし、陰キャの文学オタクが真逆の人間になろうとするのは無理があったみたいでね」
まじか。先輩が陽キャグループにいきたかったのも陰キャ文学オタクだったのも俺にはまさかすぎてなかなか話についていけない。
「だからこっち路線にしてみたらなんか上手くいったんだよ。もともと顔はいいから、黙ってればインテリイケメン扱いしてもらえるみたいでさ。別に勉強得意なわけじゃないのに、引くに引けなくなっちゃったんだよぉ……」
先輩は、積み上げた参考書の上に突っ伏してなんかぴーぴー鳴いている。こんな姿見たことない。これは本当に俺とみんなの知っている古倉先輩なのだろうか……?
「ほんとうに、そんな……?」
「学校で僕の周りにあるのは、クールでいなきゃいけないプレッシャーと勉強の話しかしないつまらない男子グループだけになった。でも僕はこの地位を手放してただの陰キャに戻るのは嫌なんだ。だからイメージは守りたい。クールインテリイケメンの僕に似つかわしくないものは持ってちゃいけないんだ」
あんたよく喋るな。どこがクールだよ。
「もふもふとかゆるキャラとか、癒されるものを周りに置けないのが何よりしんどくてさ……。きみだったらぬいぐるみ連れてても別におかしくないだろうけど、僕はそういうわけにいかないからね」
え、俺ぬいぐるみ連れててもおかしくないの? それは知らなかった。誰も教えてくれなかったし。
「……ん? そういえば、さっき泣きながら言ってたメロちゃんとモスくんって誰ですか?」
「よく覚えてたね。うちにいるぬいぐるみたちだよ。メロちゃんはメロンのおばけ。モスくんはマンモスのラッパー」
そう言ってスマホを取り出すと、秒で写真を見せてくれた。
オレンジ色の口を三日月形にしてニコッと笑っている緑色のおばけ。これは確かにかわいい。
ツノのカーブにマイクを固定して喧嘩を売るように目付き悪くこちらを睨んでくるマンモス。これは……かわいいのか?
「あー、全部話したらなんかスッキリした」
先輩は、スマホを置いて天に向かって大きく伸びをした。
スッキリしたとの言葉通り、その顔からは先ほどまでの恨みつらみを鍋で煮込んだようなドス黒いモヤは消えていた。
「よかったですね」
そう返すと、
「…………」
「……?」
なぜか急に、俺の顔をじっと覗き込んできた。
反射的に見返すと、物凄く綺麗な顔が間近にあって、びっくりして椅子から転げ落ちそうになってしまった。
「な、ななな何ですか」
「きみでもいいかもな、癒しグッズ」
………………ん?
「1年生の夏山くんだよね? 下の名前は?」
「……あ、えと、六実です。漢数字の六に、果実の実。親が6種のミックスナッツ食べてる時に名付けたみたいです」
「へぇ〜、かわいいじゃん。じゃあ、むっちゃんね」
「へ?」
「これから毎週月火の放課後当番、利用者も司書の先生もいない二人きりの時は、むっちゃんって呼ぶから。
僕の専属癒し係、よろしくね」
「………………はい?」
これが、月曜日のこと。
図書準備室の扉の向こうで、有名なクールインテリ系イケメンの先輩が、参考書の山に埋もれて号泣していた。
これが、月曜日のこと。
□
(え? これどういう状況?)
気付くと俺は、彼の膝の上で頭を撫で回されていた。
これが、火曜日のこと。
□ □ □
月曜日の朝まで時間を戻そう。
高校1年生の二学期の初め。今日の俺は少し緊張していた。
正門を入ってまず最初に視界に飛び込んでくるのは、一軍陽キャグループの一団だ。彼らは芸能人のような容姿をフル活用して、派手な見た目に派手な振る舞いで常に周囲からの注目を集め続ける。女子たちは彼らを見て大声でキャーキャーと騒ぐ。
俺なんかは一生関わることのない種類の人間だ。
それとは別の界隈で、静かに一定数の視線を捉えている人物もいる。
一軍の彼らと変わらない……いや、ひょっとすると上回るくらいの顔の良さでありながら、他人を寄せ付けない鉄の仮面を被り、成績は常にトップクラス、華やかな男女交際には目もくれず、空き時間は数人の成績上位組と静かに談笑して過ごす。
校内きってのクールインテリイケメンと噂される彼を見て女子たちは、小声で密かにキャッキャと盛り上がる。
こちらも俺なんかは一生関わることのない種類の人間だ。
……と思っていたのだけど。
入学してすぐの委員決めで、俺は図書委員になった。
真面目そうという単純な理由でまだ名前も覚えていない誰かに推薦されて、断る理由もないのでそのまま引き受ける形になったのだ。別に委員会がやりたかったわけではないのだけど、もしまかり間違って飼育委員などになってしまった暁には、1年生の1年間を地獄の底で過ごすことになるため、何でもいいから他の委員になっておきたいというのもあった。
その図書委員会に例の彼――クールインテリイケメンと噂の2年生・古倉詠心先輩――がいた。
おぉー有名な人だー。すごーい、かっこいいー。と思って見ているうちは呑気なものだったけど、二学期の放課後当番でペアになると決まった時はさすがに「え?」と思った。
中学までをひたすら真面目に地味に素朴に生きてきた俺には、ちょっとハードルの高いペアではないかと……。
とはいえ決まってしまったものは変えられない。当番は月・火の放課後だけだし、日によっては司書の先生がいることもある。何より有名な先輩と交流できるというのは、学生生活の中で何かの経験値になるに違いない。
というわけで、緊張を覚えながらも前向きにその日を迎えることとなった。
□ □ □
そして迎えた当番初日のこと。
うちの放課後当番は、規則上はホームルームが終わった者から図書室に直行するということになっているのだけど、事実上は下級生が上級生よりも先に到着して清掃などを済ませておかなければならないという暗黙のルールがあるため、放課後までは内心気が気じゃなかった。
一学期に当番をしていた同学年の子にきいてみたところ、
「2・3年生は1年が先に来て準備してるのが当然だと思ってるから、いつも社長出勤みたいに遅〜く来るよー」
と言うので、どんな学校だよとは思いつつもむしろそのほうが有難いぐらいまであった。
何しろあの古倉先輩はきっちりしてそうだから、社長出勤なんてことはしないですぐに仕事場に向かいそうだ。もちろんそれは立派なことなんだけど、そうなると俺の立場が危うくなる。先輩よりも遅れて来る生意気な1年生になってしまう。
しかしそんな心配は杞憂だったようで、幸運なことにこの日のホームルームは異常なまでに早く終わった。
これならまず間違いなく先輩よりも先に図書室に到着できるだろう。清掃とカウンター準備まで完遂できるかもしれない。ひとまず第1関門はクリアだ!
こうして多少の安心と、しかしまだ続く多大な緊張を胸に、俺は図書室へと向かった。
ちょっと怖そうだけど、良い人だといいな。
□ □ □
図書室に着くと、まずは荷物を置くために最奥の図書準備室に向かった。扉の近くまで来たあたりで、何か物音がしたような気がして立ち止まる。
図書室と図書準備室の間に窓はないから中の様子はわからないけど、なんか人の気配がするような……?
(もしかして、ペアの先輩、先に来ちゃってる?)
まさかうちのクラスよりも更に驚異的な早さでホームルームが終わったのか? 余裕だと思っていた分、一気に不安が押し寄せる。
重くなった足取りで扉の前まで来ると、……扉が少しだけ開いていることに気付いた。だから物音が漏れ聞こえていたのか。ノブに手をかける直前。隙間から扉の向こうを見るともなしに覗いてしまった、瞬間――。
「うわあぁぁんもう勉強ばっかり嫌だよぉぉ。好きなだけ本読んで好きなだけ寝たい……。友達つまんないし女子ぜんぜん話しかけてこないしこの生活なんなんだよぉぉ。メロちゃんとモスくんモフモフして癒されたいぃいうわあぁぁん……」
………………
………………
………………え?
(え? これどういう状況?)
何も見なかった、何も聞かなかったことにして引き返すべきなのだろうか?
頭ではそう思っても、足が硬直してしまってその場から動けない。
なんだかわからないけれど、なんか今とんでもなくまずいことになっている。
そして……――。
そうしているうちに、細く開いた扉の向こう、号泣していた『彼』の真っ赤な目が、何かに気付くようにこちらへと向けられる……。
――目の前の扉が開かれた。
「……――」
初めて、こんな間近でその人を見た。
俺よりも頭ひとつ分は背が高く、雑誌で見るモデルのようなシルエットで、切れ長の目は赤く潤んでいてもなお理知的で、これまで出会った誰にも見たことがなかった不思議なオーラがあって……
(すごい……本当に、かっこいい……――)
目の前のその人に、俺は完全に圧倒された……。
……ん?
ちがう。そんな場合じゃない。
今これどうするのが正解? 詰んだ? 死んだ?
何も言葉が出せずただ見上げるしかなくなっている俺に、彼は普段見せている通りの冷たい眼差しで、小さく口を開いた。
「……どのへんから見てた?」
もう、正直に答えることしかできない。
「……参考書の山に埋もれて、『うわあぁぁんもう勉強ばっかり嫌だよぉぉ』と号泣されてたあたりからです」
俺の返答を聞くと、先輩は頭を抱えてしまった。
「…………人に言わないよね?」
「言わないですし言ったとしても誰も信じません」
「……きみそういうタイプの子か」
「?」
諦めたように準備室の奥まで戻ると、先程まで自分が埋まっていた席につき、俺にも椅子を勧めた。もはやどうすることもできないので素直に座る。
「言っとくけどきみが来るのが早すぎるのが悪いんだからね? どんだけ早く見積もってもあと5分は余裕だと思ってたのに」
「すみません。担任によく言っておきます」
「言わなくていい!」
「すみません」
「……僕は、高校デビューに失敗したんだ」
先輩は俺から目線を外すと、ぽつりぽつりと話し始めた。
「え? できてるじゃないですか」
「僕は一軍陽キャグループになりたかったんだよ。でも流行りとか疎いし、陰キャの文学オタクが真逆の人間になろうとするのは無理があったみたいでね」
まじか。先輩が陽キャグループにいきたかったのも陰キャ文学オタクだったのも俺にはまさかすぎてなかなか話についていけない。
「だからこっち路線にしてみたらなんか上手くいったんだよ。もともと顔はいいから、黙ってればインテリイケメン扱いしてもらえるみたいでさ。別に勉強得意なわけじゃないのに、引くに引けなくなっちゃったんだよぉ……」
先輩は、積み上げた参考書の上に突っ伏してなんかぴーぴー鳴いている。こんな姿見たことない。これは本当に俺とみんなの知っている古倉先輩なのだろうか……?
「ほんとうに、そんな……?」
「学校で僕の周りにあるのは、クールでいなきゃいけないプレッシャーと勉強の話しかしないつまらない男子グループだけになった。でも僕はこの地位を手放してただの陰キャに戻るのは嫌なんだ。だからイメージは守りたい。クールインテリイケメンの僕に似つかわしくないものは持ってちゃいけないんだ」
あんたよく喋るな。どこがクールだよ。
「もふもふとかゆるキャラとか、癒されるものを周りに置けないのが何よりしんどくてさ……。きみだったらぬいぐるみ連れてても別におかしくないだろうけど、僕はそういうわけにいかないからね」
え、俺ぬいぐるみ連れててもおかしくないの? それは知らなかった。誰も教えてくれなかったし。
「……ん? そういえば、さっき泣きながら言ってたメロちゃんとモスくんって誰ですか?」
「よく覚えてたね。うちにいるぬいぐるみたちだよ。メロちゃんはメロンのおばけ。モスくんはマンモスのラッパー」
そう言ってスマホを取り出すと、秒で写真を見せてくれた。
オレンジ色の口を三日月形にしてニコッと笑っている緑色のおばけ。これは確かにかわいい。
ツノのカーブにマイクを固定して喧嘩を売るように目付き悪くこちらを睨んでくるマンモス。これは……かわいいのか?
「あー、全部話したらなんかスッキリした」
先輩は、スマホを置いて天に向かって大きく伸びをした。
スッキリしたとの言葉通り、その顔からは先ほどまでの恨みつらみを鍋で煮込んだようなドス黒いモヤは消えていた。
「よかったですね」
そう返すと、
「…………」
「……?」
なぜか急に、俺の顔をじっと覗き込んできた。
反射的に見返すと、物凄く綺麗な顔が間近にあって、びっくりして椅子から転げ落ちそうになってしまった。
「な、ななな何ですか」
「きみでもいいかもな、癒しグッズ」
………………ん?
「1年生の夏山くんだよね? 下の名前は?」
「……あ、えと、六実です。漢数字の六に、果実の実。親が6種のミックスナッツ食べてる時に名付けたみたいです」
「へぇ〜、かわいいじゃん。じゃあ、むっちゃんね」
「へ?」
「これから毎週月火の放課後当番、利用者も司書の先生もいない二人きりの時は、むっちゃんって呼ぶから。
僕の専属癒し係、よろしくね」
「………………はい?」
これが、月曜日のこと。



