翌朝。
「眠い」
欠伸を噛み殺しながら、拓は校門へ向かっていた。
昨日は散々だった。転ぶわ、目立つわ、神代に手を握られるわ。
思い出しただけで顔が熱くなる。
「いや、別に変な意味じゃなくて」
誰に言うでもなく呟く。
怪我を心配してくれただけ。
それ以上でも、それ以下でもない。
そう自分に言い聞かせる。
「おっはよ〜」
後ろから飛んできた元気な声に振り返ると、高木が自転車で追いついてきた。
「あ、おはよ」
「どうだった。友達できたか?」
拓は思わず苦笑する。
「いや、できたというか目立っただけというか」
昨日の出来事を思い出し、なんとも言えない表情になる。
すると高木はなぜか、にやっとした顔で頷いた。
その反応に嫌な予感がする。
案の定、高木は悪い笑みを浮かべながら言った。
「大丈夫だ。俺が毎回休み時間に会いに行ってやるからな」
そう言って頭を撫でようと手を伸ばしてくる。
拓は即座にその手を払いのけた。
「おい、まだ決めつけるな」
「え?」
「まだ俺に友達ができる可能性はあるから!」
「まぁまぁ、素直になっていいんだぞ」
「ならねぇよ」
そんなくだらないやり取りをしながら歩いていると、、、
「おはよ」
不意に後ろから声がした。
聞き覚えのある低く落ち着いた声。
拓と高木は同時に振り返る。
そこに立っていたのは、神代だった。
朝日に照らされた姿は相変わらず絵になる。
長い脚でこちらへ歩いてくるだけで、周囲の女子たちがそわそわしているのが分かった。
しかし、拓も高木も、まさか自分たちに話しかけられているとは思わなかった。
二人揃って周囲を見渡す。
後ろに誰かいるのかもしれない。
そう考えたのだ。
けれど、それらしい人影はない。
「……?」
拓が首を傾げていると、神代は小さくため息をついた。
「三浦達に言ってるんだけど」
そう言いながら一切迷いのない視線で、こちらを見る。
その言葉を理解するのに数秒かかった。
「え?」
思わず間の抜けた声が漏れる。
今、俺達にって言ったか?
「お、おはよう……」
反射的に挨拶を返すと、神代は満足そうに「ん」と頷いた。
その隣で高木が肘で脇腹をつついてくる。そして小声で
「お前、まさか二大王子に目つけられたんじゃ」
「いや、いや、いや、そんな訳ないっ…はず」
即座に否定したものの、俺もなぜこんなに神代が話しかけてくるのか不思議で仕方ない。
そして神代はなぜか当然のように俺たちの隣へ並んだ。
そしてそのまま、一緒に校門へ向かって歩き始めた。
「(なんで?)」
拓の頭の中は、その言葉でいっぱいだった。
ーーーー
クラスに入ると、上野はすでに女子たちに囲まれていた。
何人もの女子に囲まれながらも、相変わらず楽しそうに笑っている。
その中心にいる姿はまるでアイドルだ。
「あっ、おはよー!」
上野がこちらに気づき、大きく手を振る。
「東真と、たくっち!」
「ん?」
拓は思わず立ち止まった。
「たくっち?」
聞き慣れない呼び方に首を傾げる。
(いつの間にかあだ名ができてる……)
「なんか拓じゃ物足りないなーって思ってさ」
上野は満足そうに笑った。
「いい呼び方でしょ?“たくっち”って」
「はぁ……」
否定する気力も湧かない。
朝からキラキラ全開の上野に、拓は軽くため息をついた。
そのまま席へ向かう。
上野と女子たちは相変わらず何かの話題で盛り上がっていた。
楽しそうな笑い声が教室中に響いている。
すると上野が突然声を上げた。
「なぁ、東真も一緒にやらね?」
「却下」
即答だった。
「まだ何も言ってねーよ」
上野が不満そうに頬を膨らませる。
しかし神代は気にした様子もない。
そんな二人のやり取りを見ていると、
「たくっちも一緒にやらね?」
突然話を振られた。
「な、何を?」
嫌な予感しかしない。
上野は満面の笑みを浮かべた。
「王様ゲーム!」
「は?」
思わず素の声が出る。
朝から?
教室で?
男子、上野だけだし。
頭の中に疑問符が大量発生する。
「意外と盛り上がってさー。もっと人数増やした方が面白いかなって」
上野の周りを見ると、女子たちも期待したような目を向けていた。
「却下」
またしても神代が即答する。
「いや、たくっちに聞いてんのに」
「三浦はそういうの苦手だろ」
神代が当然のように言った。
「え?」
拓は思わず神代を見る。
どうしてそんなことを知っているんだろう。
昨日会ったばかりなのに。
神代は特に気づいた様子もなく視線を逸らした。
一方、上野は諦めない。
「一回だけ!」
キラキラした笑顔を向けてくる。
その後ろでは女子たちも期待に満ちた視線を送っていた。
ものすごく断りづらい。
「……まぁ、一回だけなら」
観念してそう答える。
すると上野がパッと顔を輝かせた。
「やった!」
その瞬間。
拓の隣から小さなため息が聞こえた気がした。
「よし!」
上野が嬉しそうに声を上げる。
あっという間に机が寄せられ、王様ゲームの準備が始まった。
「なんでこんなことになったんだ……」
その隣では神代が無言で腕を組んでいた。
明らかに乗り気ではない。
「それじゃ一回目いきまーす!」
上野が割り箸を引く。
続いて全員が一本ずつ取った。
「王様だー!」
女子の一人が手を挙げる。
教室が盛り上がる。
「じゃあ……二番と五番が、お互いの第一印象を言う!」
平和な命令に、あちこちから笑い声が上がった。
そんな調子で何度かゲームは進み、
「王様だ!」
今度は上野だった。
嫌な予感しかしない。
「じゃあ〜」
上野はにやりと笑う。
その笑顔を見た瞬間、神代が盛大に眉をひそめた。
「三番と七番が――」
「キス!」
教室が爆発した。
「きゃーーー!!」
女子たちが盛り上がる中、拓は震える手で割り箸を見る。
三番。
人生終わった。俺、まだ誰にもファーストキス奪われたことないのに。
恐る恐る顔を上げる。
隣には一本の割り箸が机に置かれる。
そこには。
七。
「……」
「……」
拓の思考が停止する。
「え」
隣には、いつもと変わらない顔をした神代。
けれど、その目だけは妙に真剣だった。
「嘘だろ……」
拓の呟きが漏れる。
その様子を見つけた上野は、明らかにヤバいという顔をして
「ま、まぁキスっていうのは冗談なんだけっ」
と焦ったような声で場を取り戻そうとするが
なぜか神代は静かに席を立つ。
そして
「東真?」
上野の声さえ聞こえない。
一歩。また一歩。
神代がこちらへ近づいてくる。
拓の心臓が壊れそうなほど鳴り響いた。
逃げたい。
でも動けない。
神代は拓の目の前で立ち止まる。
その距離は、もうほとんど――。
「……三浦」
低い声が名前を呼んだ。
俺、本当に神代と………!?!?
「眠い」
欠伸を噛み殺しながら、拓は校門へ向かっていた。
昨日は散々だった。転ぶわ、目立つわ、神代に手を握られるわ。
思い出しただけで顔が熱くなる。
「いや、別に変な意味じゃなくて」
誰に言うでもなく呟く。
怪我を心配してくれただけ。
それ以上でも、それ以下でもない。
そう自分に言い聞かせる。
「おっはよ〜」
後ろから飛んできた元気な声に振り返ると、高木が自転車で追いついてきた。
「あ、おはよ」
「どうだった。友達できたか?」
拓は思わず苦笑する。
「いや、できたというか目立っただけというか」
昨日の出来事を思い出し、なんとも言えない表情になる。
すると高木はなぜか、にやっとした顔で頷いた。
その反応に嫌な予感がする。
案の定、高木は悪い笑みを浮かべながら言った。
「大丈夫だ。俺が毎回休み時間に会いに行ってやるからな」
そう言って頭を撫でようと手を伸ばしてくる。
拓は即座にその手を払いのけた。
「おい、まだ決めつけるな」
「え?」
「まだ俺に友達ができる可能性はあるから!」
「まぁまぁ、素直になっていいんだぞ」
「ならねぇよ」
そんなくだらないやり取りをしながら歩いていると、、、
「おはよ」
不意に後ろから声がした。
聞き覚えのある低く落ち着いた声。
拓と高木は同時に振り返る。
そこに立っていたのは、神代だった。
朝日に照らされた姿は相変わらず絵になる。
長い脚でこちらへ歩いてくるだけで、周囲の女子たちがそわそわしているのが分かった。
しかし、拓も高木も、まさか自分たちに話しかけられているとは思わなかった。
二人揃って周囲を見渡す。
後ろに誰かいるのかもしれない。
そう考えたのだ。
けれど、それらしい人影はない。
「……?」
拓が首を傾げていると、神代は小さくため息をついた。
「三浦達に言ってるんだけど」
そう言いながら一切迷いのない視線で、こちらを見る。
その言葉を理解するのに数秒かかった。
「え?」
思わず間の抜けた声が漏れる。
今、俺達にって言ったか?
「お、おはよう……」
反射的に挨拶を返すと、神代は満足そうに「ん」と頷いた。
その隣で高木が肘で脇腹をつついてくる。そして小声で
「お前、まさか二大王子に目つけられたんじゃ」
「いや、いや、いや、そんな訳ないっ…はず」
即座に否定したものの、俺もなぜこんなに神代が話しかけてくるのか不思議で仕方ない。
そして神代はなぜか当然のように俺たちの隣へ並んだ。
そしてそのまま、一緒に校門へ向かって歩き始めた。
「(なんで?)」
拓の頭の中は、その言葉でいっぱいだった。
ーーーー
クラスに入ると、上野はすでに女子たちに囲まれていた。
何人もの女子に囲まれながらも、相変わらず楽しそうに笑っている。
その中心にいる姿はまるでアイドルだ。
「あっ、おはよー!」
上野がこちらに気づき、大きく手を振る。
「東真と、たくっち!」
「ん?」
拓は思わず立ち止まった。
「たくっち?」
聞き慣れない呼び方に首を傾げる。
(いつの間にかあだ名ができてる……)
「なんか拓じゃ物足りないなーって思ってさ」
上野は満足そうに笑った。
「いい呼び方でしょ?“たくっち”って」
「はぁ……」
否定する気力も湧かない。
朝からキラキラ全開の上野に、拓は軽くため息をついた。
そのまま席へ向かう。
上野と女子たちは相変わらず何かの話題で盛り上がっていた。
楽しそうな笑い声が教室中に響いている。
すると上野が突然声を上げた。
「なぁ、東真も一緒にやらね?」
「却下」
即答だった。
「まだ何も言ってねーよ」
上野が不満そうに頬を膨らませる。
しかし神代は気にした様子もない。
そんな二人のやり取りを見ていると、
「たくっちも一緒にやらね?」
突然話を振られた。
「な、何を?」
嫌な予感しかしない。
上野は満面の笑みを浮かべた。
「王様ゲーム!」
「は?」
思わず素の声が出る。
朝から?
教室で?
男子、上野だけだし。
頭の中に疑問符が大量発生する。
「意外と盛り上がってさー。もっと人数増やした方が面白いかなって」
上野の周りを見ると、女子たちも期待したような目を向けていた。
「却下」
またしても神代が即答する。
「いや、たくっちに聞いてんのに」
「三浦はそういうの苦手だろ」
神代が当然のように言った。
「え?」
拓は思わず神代を見る。
どうしてそんなことを知っているんだろう。
昨日会ったばかりなのに。
神代は特に気づいた様子もなく視線を逸らした。
一方、上野は諦めない。
「一回だけ!」
キラキラした笑顔を向けてくる。
その後ろでは女子たちも期待に満ちた視線を送っていた。
ものすごく断りづらい。
「……まぁ、一回だけなら」
観念してそう答える。
すると上野がパッと顔を輝かせた。
「やった!」
その瞬間。
拓の隣から小さなため息が聞こえた気がした。
「よし!」
上野が嬉しそうに声を上げる。
あっという間に机が寄せられ、王様ゲームの準備が始まった。
「なんでこんなことになったんだ……」
その隣では神代が無言で腕を組んでいた。
明らかに乗り気ではない。
「それじゃ一回目いきまーす!」
上野が割り箸を引く。
続いて全員が一本ずつ取った。
「王様だー!」
女子の一人が手を挙げる。
教室が盛り上がる。
「じゃあ……二番と五番が、お互いの第一印象を言う!」
平和な命令に、あちこちから笑い声が上がった。
そんな調子で何度かゲームは進み、
「王様だ!」
今度は上野だった。
嫌な予感しかしない。
「じゃあ〜」
上野はにやりと笑う。
その笑顔を見た瞬間、神代が盛大に眉をひそめた。
「三番と七番が――」
「キス!」
教室が爆発した。
「きゃーーー!!」
女子たちが盛り上がる中、拓は震える手で割り箸を見る。
三番。
人生終わった。俺、まだ誰にもファーストキス奪われたことないのに。
恐る恐る顔を上げる。
隣には一本の割り箸が机に置かれる。
そこには。
七。
「……」
「……」
拓の思考が停止する。
「え」
隣には、いつもと変わらない顔をした神代。
けれど、その目だけは妙に真剣だった。
「嘘だろ……」
拓の呟きが漏れる。
その様子を見つけた上野は、明らかにヤバいという顔をして
「ま、まぁキスっていうのは冗談なんだけっ」
と焦ったような声で場を取り戻そうとするが
なぜか神代は静かに席を立つ。
そして
「東真?」
上野の声さえ聞こえない。
一歩。また一歩。
神代がこちらへ近づいてくる。
拓の心臓が壊れそうなほど鳴り響いた。
逃げたい。
でも動けない。
神代は拓の目の前で立ち止まる。
その距離は、もうほとんど――。
「……三浦」
低い声が名前を呼んだ。
俺、本当に神代と………!?!?
