クラスの中心にいる君と、隅っこにいる俺の話。

昼休みの相談から数日が経った放課後。

「じゃあなー!」

クラスメイトたちが次々と帰っていく中、拓も鞄を持ち上げた。

すると当然のように神代が立ち上がる。

「帰ろう」

いつも通りなら、二人で並んで帰るはずだった。

だけど今日は違う。

「あ、ごめん」

拓が足を止める。

「今日ちょっと用事ある」

「用事?」

思わず視線を逸らした。

告白の相談。

しかも女子と二人きり。

そんなこと言えるわけがない。

「ちょっと先生に聞きたいことあって」

咄嗟に出た嘘だった。

神代は何も言わず、ただ数秒だけ拓を見る。

「そっか」

「ごめんな」

「大丈夫。また明日」

神代はそれだけ言って教室を出ていった。

その背中を見送りながら、拓は小さく息を吐く。

(なんか申し訳ないな)

でも約束してしまったし仕方ない。

数分後、校門へ向かうと待っていた女子がぱっと顔を上げた。

「あっ、三浦くん!」

「ごめん、待った?」

「全然!」

今日は神代へ渡すプレゼントを選ぶ日だった。

「神代くんってどんなの好きかな」

「うーん……」

拓は真剣に考える。

神代のため。

ただそれだけを考えていた。

⸻

その頃。

校門を出た神代は何気なく後ろを振り返った。

女子と並んで歩く拓の姿を見つける。

足が止まった。

遠くて声は聞こえない。

けれど、楽しそうに笑う拓の表情だけははっきり見えた。

その瞬間、胸の奥がじくりと痛む。

「東真?」

隣を歩いていた上野が声をかける。

神代は視線を逸らした。

「先帰ってて」

「は?」

上野が目を丸くする。

「ちょっ、おい!」

呼び止める声を背中で聞きながら、神代は拓たちのいる方へ歩き出した。

⸻

拓と女子は駅前の雑貨店へ来ていた。

「うわぁ」

店内には可愛い小物やキーホルダーが並んでいる。

「こういうの選ぶの苦手なんだよね」

女子が困ったように笑う。

「神代くんって何も持ってなさそうだし」

「確かに」

拓も思わず頷いた。

神代の持ち物はどれもシンプルで、余計な飾りがない。

「でも意外と可愛いの好きかも」

「え?」

女子が驚いた顔をする。

拓は慌てて手を振った。

「あ、いや、なんとなく」

脳裏に浮かんだのは、ゲームセンターで犬のぬいぐるみを抱え、珍しく嬉しそうに笑っていた神代の姿だった。

女子はくすっと笑う。

「三浦くん、本当に神代くんのことよく見てるんだね」

「そうかな?」

少しだけ照れ臭くなり、拓は商品棚へ視線を逃がした。

しばらく歩いていると、女子がぽつりと呟く。

「神代くんってさ、好きな人いるのかな」

拓の足が止まった。

「だってあんなにかっこいいのに、全然そういう話聞かないし」

不安そうな横顔。

「もし好きな人いたらどうしようって」

神代の好きな人なんて、今まで考えたこともなかった。

いてもおかしくない。

なのになぜか、胸の奥が少しだけざわついた。

「三浦くん?」

「あ、ごめん」

慌てて笑う。

「どうだろうな」

声が少しだけ掠れた気がした。

「やっぱり好きな人いるかな」

「かもね」

そう答えながらも、胸の中のもやもやは消えない。

自分でもその理由は分からなかった。

⸻

日が傾き始めた頃、無事にプレゼントを選び終えた。

その帰り道、不意に女子の足が止まる。

「三浦くん」

振り返ると、女子は袋をぎゅっと握りしめていた。

「明日、神代くんに告白しようと思う」

「えっ、明日」

思わず目を丸くする。

「うん」

真剣な眼差しだった。

「だから……ちょっと勇気もらおうかなって」

照れくさそうに笑う。

拓も自然と笑みを返した。

「大丈夫だと思う」

「本当?」

「うん。神代ならきっとちゃんと答えてくれるよ」

女子の顔がぱっと明るくなる。

「ありがとう」

⸻

その時だった。

「拓」

聞き慣れた声が背後から響く。

振り返ると、神代が立っていた。

「か、神代!?」

思わず声が裏返る。

神代は当然のように隣へ来た。

「何してたの」

「えっと……ちょっと寄り道」

女子は慌てたように笑う。

「じゃあ私行くね」

小さく手を振り、そのまま駆けていった。

残された二人は並んで歩き出す。

「何話してたんだ」

不意に神代が聞いた。

「え?」

「最近、よく一緒にいるだろ」

拓の心臓が跳ねる。

「あー……」

視線が泳ぐ。

「ちょっと勉強のこと」

あの子の想いを自分が言うなんてできない。

だから嘘をつくしかなかった。

神代は何も言わず、ただ「そっか」とだけ返した。

なのに、どこか信じていない気がした。

沈黙が続き、拓は首を傾げる。

(なんか機嫌悪い?)

でも理由は分からない。

(疲れてるのかな)

そんな呑気な結論に落ち着いた。

⸻

一方で神代は違った。

昼からずっと気になっていた。

あの女子のこと。

拓が俺に隠していること。

全部聞きたい。

今すぐ理由を知りたい。

けれど、困らせたくないから聞けない。

神代は拳をぎゅっと握る。

隣を歩く拓を見る。

何も知らずに笑う横顔が少しだけ眩しくて、だからこそ苦しかった。