僕らは流れて消える星なんかじゃない
いつでも Reign at the top
ふたつの輝く CROWN(王冠)
きみの心に輝き続ける CROWN(王冠)さ
ここで綺麗にターンして――ずるっ。
「うわっ!」
「彼方!」
「ぎゃああぁ」
ぶっ。
天城彼方はテレビのリモコンを握り締め、悲鳴を上げながら画面に流れる映像をぶち切りにした。
ひと月前の『サクラ・ステージ』の録画映像だった。
『サクラ・ステージ』はメディア系の大企業サクラ・メディア・ホールディングスの傘下である『サクラ・テレビ』の金曜のゴールデンタイムを飾る音楽番組だ。
その日は期間限定ユニット『DoubleCrown』のデビューの日であり、サクラ・ステージでデビュー曲を初披露したわけだ。
が。
ちなみにDouble Crownはやはりサクラ・メディア・ホールディングス傘下のプロダクション『桜ノ森スターズ』通称『SAKUプロ』に所属するユニットである。
もともとSAKUプロで人気を誇る『王子様』こと都王子煌と、一年ほど前に『Crash』というダンスメインのユニットに加わった天城彼方との異色のコンビだ。
彼方はテレビ前に座り込み両手で顔面を覆った。
このひと月の間何度この映像を観たことか。
「何度観ても無様すぎる」
地の底から聞こえてくるような声が自分の口から絞り出てくる。
晴れのデビュー曲初披露。
歌い終わって最後に綺麗にターンをして、煌と二人で決めポーズをする――予定だった。
長年の研究生生活でみっちりダンスレッスンをしていたせいか、ダンスだけは認められCrashのメンバーにも加われた。
何度も練習した。リハーサルもした。
絶対決める! と思ってた。
なのに。
ずるっと滑って床に沈んだ。
一瞬、司会者・出演者は勿論スタッフ、本日運良く入ることのできた観覧者に至るまで、スタジオ中がし……んと静まり返った。
二人にとってはSAKUプロの大先輩司会者の浜名翔斗も、何を言うべきか口をぱくぱくさせていた。
当の彼方自身も何が起きたのかわからず高い天井のライトを見ていた。
最初に動いたのが、煌。
彼方の腕を掴んで引っ張り上げた。まだ状況を把握しきれていない彼方の肩に腕を回し、顔を近づける。
「彼方はすごく緊張してるんだ。これから僕と頑張って成長していくから見守ってあげてほしい」
きらきら光る『王子様』の笑顔を観覧席の女性たちに振りまいた。
「きゃ~」
「煌さま~」
煌ファンの黄色い声援で時が流れだす。
煌はそれに手を振って応えながら、小声で言う。
「笑顔、笑顔」
彼方の顔に引き攣った笑顔が貼りついた。
* *
「ったく、無様だな」
助手席の背に足を上げている。不遜な態度に嘲笑。
一時間前のあの『王子様』然とした微笑みはどこへやら。
「申し訳ないです」
謝罪の言葉は口にしたものの、顔はムッしていて心底謝っているようには見えない。
「なんだ、その顔本気で申し訳ないと思ってんのか。今日がデビュー! 初披露! それを台無しにしやがって」
車の中、狭い空間でがなり立てる。彼方は両耳を掌で塞いだ。
「最後の決めポーズでコケるわ、しかもそれを自分でフォローすらできないって。それでもCrashで一年間やってきたのか?」
塞いでもよく通る声がぐさぐさっと刺さるが、聞こえないフリをした。
「まあまあ。逆に話題になるかも知れませんよ」
運転席にいるマネジャーの羽加多が柔らかな口調で言う。
(羽加多さん優し。煌さんとは大違いっ)
羽加多は煌のマネジャーで、ユニットを組んでいる期間は彼方の、といよりはDouble Crownのマネジャーも兼ねている。
今はサクラ・ステージを終えて事務所に帰るところだ。
「はっ本当になんでこんな奴が俺の相方かね。何年も研究生でやっとどうにか、Crashのメンバーに加わったような奴が。他にいるだろー、ソロでやってる奴でもユニット組んでる奴でも、俺に相応しい奴がさ。Crashだったらせめてリーダーくらいじゃないとさー」
Crash自体はデビューして三年。しかし、煌には勿論、『なないろ』『BLACK ALICE』などのSAKUプロの人気ユニットには遠く及ばない。自分たちでもCDを出しているが、それよりも他のユニットやソロのバックで踊っているほうがメインとなってしまっている。
「んなのっ自分でもわかってますって」
つい口走ってしまい、掌を耳から口に移動。
「それに生意気だ、俺にそんな口を利く奴お前くらいだ」
(そんなの……煌さんだって……)
「まあ、どれくらい持つか見ものだな」
せせら笑う。
(そうなのだ)
Double Crownは期間限定ユニット。しかも期間ははっきり儲けられていない。
(社長はいちおう二年くらい? みたいなこと言ってたけど。ヘタしたら明日にでも解散じゃないか? いや、もういっそうそのほうが)
彼の頭の中には『Double Crown解散?! 一夜限りのユニット』という新聞の見出しが浮かんでいた。
そんな彼には、
「それにしても……あの歌ダサすぎねぇか」
と煌が言ったことなど聞こえていなかった。


