咲く花は鋼鉄を穿つ 〜暴君となった憧れの少年と、豊穣の世を築くまで〜

「わが愛娘、花姫や。
どこにおるのかね」

冬が明け、空気が優しくなる初春。
白梅の咲き乱れる庭園で、父が呼ぶ声がする。

「ここです、お父様」

梅の木の陰から、ひょこりと顔を出してみせると、父は嬉しそうに破顔した。

「ああ、相変わらず愛らしい。
まるで梅花の精のようだ」

「大げさです、お父様」

まったく父は、甘やかしが過ぎる。
だが父は、気にした素振りもなく、「おいで」と手を差し出してくる。
父の方へ駆け寄ると、ほんの少し、父の顔が曇った。

「花姫や。
昨日までの長雨で、荘園で育てているネギが、弱ってしまったようでな。
申し訳ないが、また力を……」

「もちろんです、お父様。
季節外れの雨で、私も心配していましたの。
ぜひ、行かせてください」

「おお、お前はなんて優しいのだろう。
ありがたや、ありがたや。
農民たちも喜ぶだろう」

自分には、他の人にはない能力がある。
己の力を、植物に分け与える力だ。
当然、使った分だけ疲れるし、眠くなるし、お腹も空くから、多用はできないけれど。
……時々、調子の悪い植物があれば教えてもらって、治しに行くのだ。
おかげで、父の荘園は豊作が続き、「ぜひウチの農地も」と、寄進が後を絶たないらしい。

どちらかというと、父が喜ぶのは、ほんの副産物だ。
枯れた植物が元気になれば、それでいい。

「では、行ってまいります、お父様!」

いつものように牛車に乗り込んで、邸宅から離れた荘園の畑へ出かけた。

帰り道に、あんな出会いがあるとも知らずに……。