(なんだこの違和感は)
たった今すれ違った雪妃の姿がいつまでも頭に残っている。
事実を突きつけた鬼織に対して向けられたあの目はなんだったのか。
恐怖とも怒りともまた違った目。
冥府宮に来てから三年。後宮管理者の役割を与えられ、冥王と共にいることが多く、様々な者と出会ってきたが、こんな感情になるのは初めてだった。
「鬼織、何をそんなに難しい顔をしておる」
冥王に声をかけられ、鬼織はやっと意識を戻した。
「いえ。なにもありません」
いつもと変わらず丁寧に、だけど淡々と言葉を返す鬼織を冥王はじっと見つめた。
「……そなた、あの妃を知っておるのか?」
「そんなはずはありません」
そう言いながらも鬼織の心の中には違和感が生まれていた。
あの瞳に見つめられると胸が鷲掴みされたように苦しくなった。なんとか平然を装ったが、あのまま雪妃と同じ空間にいればおかしくなっていたに違いない。
「……冥府宮は後悔がある者が行き着く地。ここで一ヶ月も過ごせば己の持っていた記憶は無くなるものだ」
「持っていた記憶を?」
「ああ、そなたも例外でない」
「私の記憶……」
「もしやあの妃がそなたの過去と関係しているのかもしれぬな」
「……」
冥王は冥府宮の最高位に立たれる方。
ここで暮らす者たちの全ての情報を得ているらしい。
一目見れば相手の過去やここへ来た経緯も全て。
「冥王さまには私とあの妃のことが見えているというのですか?」
「……」
ちらりと冥王を見てみるが、彼はただ書簡を読み漁るばかりでこちらを見ようともしなかった。
(あの妃と関係が……? しかし、これまで雪妃と会った記憶がない。だが、気のせいだと言い切れる自信もない)
一度会っただけだというのにやけに印象に残ってしまった。鬼織は大きなため息を吐きつつ、資料を並べ始めるのだった。



