外に出るとさっきまでの太陽の照りは和らぐも、暑さは変わらないといったところだった。
「あっついなー。美霞瑠なんでパピコにしなかった?」
喋り終わると同時に、湊はパピコを口に運んだ。
よく分からない質問に俺の顔は固まる。そして眉を顰めた。
「逆に聞きけど、なんで湊はパピコにしたん?」
俺は質問に質問で返した。
湊は咥えていたパピコを口から離す。
「だってパピコは一袋に2個も入ってるんだぜ。港のスイカバーは1個。俺のパピコは2個。パピコの方がお得じゃん」
そういうことか。質問の意図が分かると、俺は顰めていた眉を元に戻した。
「スイカバー好きなんだから別にこっちを選んだっていいやろ」
スイカバーが小さい頃から好きだった。なかったら違うのを選ぶし、あればこれを選んだ。特に特別な理由はない。
「スイカバーなんて小学生みたいで可愛いな、美霞瑠ちゃ・ん・は」
「なんやと」
「やっべ」
いつもの煽りに俺は無邪気に湊を追いかけた。
タタタと地面を蹴る音と笑う声が響く。
こういう特別に意味のない会話、小学生みたいなノリが好きだ。いつもの俺から解放される。バカみたいに何も考えずに笑える瞬間だ。
海の見える坂を下り、左右に分かれる5番目の角で俺たちはいつものように別れた。俺は左に、湊は右に。
「おーい!また連絡するわ、夏休み泳ぎ行くぞ」
「おう、またな」
俺たちは息を切らしながら手を振り合った。
踵を返し、汗だくになった俺は帰りを急いだ。
家に着き、鞄から鍵を取り出して玄関を開けた。
玄関の隅に朝にはなかった箱があって中身が気になったが、暑さのあまりそこまで気に留めなかった。
「あっつ。冷房つけよ」
開けたと同時に、ムワッと生ぬるい空気が充満していた。テーブルに置いてあったリモコンを手に取り、無駄に広いリビングのエアコンを起動させる。
汗をかいたため、お風呂に入ってゆっくりしたい。2階に着替えの服を取りに行こうと思ったが、テーブルの中央にあった置き手紙に気づいた。
『みちょばあちゃんに玄関にある段ボールを届けておいてください』
俺は時計を見た。遅い時間に行っても悪いから着替えずに行くか。
みちょばあちゃんとは、海の近くで駄菓子屋さんを営んでいるおばあちゃんだ。谷美都代。小さい頃からみちょばあと呼んでいる。俺のお母さんはこの島に生まれた。きっと母さんのお母さん、俺のおばあちゃんがみちょばあと仲が良く、母さんも小さい頃からお世話になっていたらしい。俺が生まれてからは、家にいない両親の代わりによくみちょばあの家に行って遊んでもらっていた。優しくて面白くて、なんでも教えてくれる生き字引のような人だ。
みちょばあは寝るのが早いため、夕飯も早い。俺は着替えるのは諦めて玄関へと向かった。
段ボールの中身を見ると洗剤やスポンジ、野菜に缶詰がぎっしり入っていた。時々おかずやお菓子を持ってきてくれることもあるので、母さんも申し訳ないと感じているようだ。
玄関を開けるとまだ日差しがあるが、だんだんと夕方から夜に移り変わっていくような空だった。ワイシャツの首元を広げて匂いを嗅いだ。少し汗臭かった。みちょばあに申し訳ないと思ったが、段ボールを持って歩くのも汗をかく。もしさっき着替えたらまた着替えることになりそうだからむしろこのままでよかったと思った。
坂を下り、最後の角を曲がると港の通りに出た。ここの直線の道を少し歩けばみちょばあの家である。港の通りを通るとおばあちゃんたちが集まっていたり、おじさんたちが魚の入っているであろうボックスを囲んで話していた。
「みーくん、どっか行くん?」
案の定、おばあちゃんに声をかけられた。
「谷さんちにお届け物です」
腕が痛くなってきたためプルプル震えていたが、それを悟られないよう笑顔で答えた。
「あらそう。みーくんは偉いわねぇ。勉強もできて、がんばりーよ」
「はい、ありがとうございます」
最後まで顔を崩さずに耐えた。
あと少しだ。俺は早歩きでみちょばあの家を目指した。
木造の建物。上には大きく『たにのだかしや』と、いかにも年季が入っている看板。ここがみちょばあの家である。
片足で立ち、左の膝の上に段ボールを置いて右手で器用にガラガラとドアを開けた。
すると、
「あらまあみかるくん、いらっしゃい。こんな時間にどうしたの?」
お店の片付けをしていたのか、俺が声をかける前にみちょばあから声をかけてくれた。藤色の着物に白い割烹着。いつもながらよく似合っていた。
「久しぶり。母さんからこれ渡しといてって頼まれたから届けに来た」
段ボールを前に出すと、みちょばあは嬉しそうな顔で箱を開ける。
「あらあらこんなにたくさん。いつもさやちゃんには悪いわねぇ」
「居間の方に運ぶよ」
「ありがとね、助かるよ」
「うん」
「あっついなー。美霞瑠なんでパピコにしなかった?」
喋り終わると同時に、湊はパピコを口に運んだ。
よく分からない質問に俺の顔は固まる。そして眉を顰めた。
「逆に聞きけど、なんで湊はパピコにしたん?」
俺は質問に質問で返した。
湊は咥えていたパピコを口から離す。
「だってパピコは一袋に2個も入ってるんだぜ。港のスイカバーは1個。俺のパピコは2個。パピコの方がお得じゃん」
そういうことか。質問の意図が分かると、俺は顰めていた眉を元に戻した。
「スイカバー好きなんだから別にこっちを選んだっていいやろ」
スイカバーが小さい頃から好きだった。なかったら違うのを選ぶし、あればこれを選んだ。特に特別な理由はない。
「スイカバーなんて小学生みたいで可愛いな、美霞瑠ちゃ・ん・は」
「なんやと」
「やっべ」
いつもの煽りに俺は無邪気に湊を追いかけた。
タタタと地面を蹴る音と笑う声が響く。
こういう特別に意味のない会話、小学生みたいなノリが好きだ。いつもの俺から解放される。バカみたいに何も考えずに笑える瞬間だ。
海の見える坂を下り、左右に分かれる5番目の角で俺たちはいつものように別れた。俺は左に、湊は右に。
「おーい!また連絡するわ、夏休み泳ぎ行くぞ」
「おう、またな」
俺たちは息を切らしながら手を振り合った。
踵を返し、汗だくになった俺は帰りを急いだ。
家に着き、鞄から鍵を取り出して玄関を開けた。
玄関の隅に朝にはなかった箱があって中身が気になったが、暑さのあまりそこまで気に留めなかった。
「あっつ。冷房つけよ」
開けたと同時に、ムワッと生ぬるい空気が充満していた。テーブルに置いてあったリモコンを手に取り、無駄に広いリビングのエアコンを起動させる。
汗をかいたため、お風呂に入ってゆっくりしたい。2階に着替えの服を取りに行こうと思ったが、テーブルの中央にあった置き手紙に気づいた。
『みちょばあちゃんに玄関にある段ボールを届けておいてください』
俺は時計を見た。遅い時間に行っても悪いから着替えずに行くか。
みちょばあちゃんとは、海の近くで駄菓子屋さんを営んでいるおばあちゃんだ。谷美都代。小さい頃からみちょばあと呼んでいる。俺のお母さんはこの島に生まれた。きっと母さんのお母さん、俺のおばあちゃんがみちょばあと仲が良く、母さんも小さい頃からお世話になっていたらしい。俺が生まれてからは、家にいない両親の代わりによくみちょばあの家に行って遊んでもらっていた。優しくて面白くて、なんでも教えてくれる生き字引のような人だ。
みちょばあは寝るのが早いため、夕飯も早い。俺は着替えるのは諦めて玄関へと向かった。
段ボールの中身を見ると洗剤やスポンジ、野菜に缶詰がぎっしり入っていた。時々おかずやお菓子を持ってきてくれることもあるので、母さんも申し訳ないと感じているようだ。
玄関を開けるとまだ日差しがあるが、だんだんと夕方から夜に移り変わっていくような空だった。ワイシャツの首元を広げて匂いを嗅いだ。少し汗臭かった。みちょばあに申し訳ないと思ったが、段ボールを持って歩くのも汗をかく。もしさっき着替えたらまた着替えることになりそうだからむしろこのままでよかったと思った。
坂を下り、最後の角を曲がると港の通りに出た。ここの直線の道を少し歩けばみちょばあの家である。港の通りを通るとおばあちゃんたちが集まっていたり、おじさんたちが魚の入っているであろうボックスを囲んで話していた。
「みーくん、どっか行くん?」
案の定、おばあちゃんに声をかけられた。
「谷さんちにお届け物です」
腕が痛くなってきたためプルプル震えていたが、それを悟られないよう笑顔で答えた。
「あらそう。みーくんは偉いわねぇ。勉強もできて、がんばりーよ」
「はい、ありがとうございます」
最後まで顔を崩さずに耐えた。
あと少しだ。俺は早歩きでみちょばあの家を目指した。
木造の建物。上には大きく『たにのだかしや』と、いかにも年季が入っている看板。ここがみちょばあの家である。
片足で立ち、左の膝の上に段ボールを置いて右手で器用にガラガラとドアを開けた。
すると、
「あらまあみかるくん、いらっしゃい。こんな時間にどうしたの?」
お店の片付けをしていたのか、俺が声をかける前にみちょばあから声をかけてくれた。藤色の着物に白い割烹着。いつもながらよく似合っていた。
「久しぶり。母さんからこれ渡しといてって頼まれたから届けに来た」
段ボールを前に出すと、みちょばあは嬉しそうな顔で箱を開ける。
「あらあらこんなにたくさん。いつもさやちゃんには悪いわねぇ」
「居間の方に運ぶよ」
「ありがとね、助かるよ」
「うん」


