私がもう厄鳥でなくなったと聞いた人々が皇居跡に戻り、再建が始まった。
すると、国中で不思議なことが起き始めた。
皇居跡から金が山ほど見つかり、各地では枯れた温泉が湧き、疫病が消え、海も山も田畑も豊かな実りに恵まれた。そして母から、不治の痔が治ったという文まで届いたのだ!
「ハクさま、何が起きているのですか?」
不思議に思って訊く。
「うむ。小鳥には、本来もっと普通の幸せな人生があったはずじゃ。母に愛され、姫として申し分ない生活を送り、恋をしたり。じゃが、父親の術のせいで、その幸せ全てを逃しておった」
「……はい」
「その受け取れなかった幸せが、長い年月の間にたまっておったのじゃ。それが今、国中にあふれ出しておる」
新しく植えてもらった桃の木に巻きつき、ハクさまが言った。
なんだかよく分からない。けれど、もしそれが本当なら。
「つまり、この国中の幸福は小鳥がもたらしたということですか?」
私が言葉にできずにいると、武尊さまが代わりに尋ねてくれた。
「さよう」
ハクさまが片目をぱちりと閉じた。
「すごいな、小鳥は」
武尊さまに肩を抱かれ、泣いてしまう。
「嬉しいです。私も、人を幸せにすることができるのですね?もう、不幸を呼ぶだけじゃない」
武尊さまの単躯突布の端を、ちょんと摘む。
「私にも武尊さまを幸せにできるでしょうか?」
武尊さまはふっと笑った。
「小鳥がいれば、もう幸せだ」
そして、口付けをくれた。こういうの、小説にあったなぁ。胸がきゅんとして、私は目を閉じた。
「よそでやれい」
ハクさまが、しゅろろと喉を鳴らした。
それからの日々は、夢のようだ。
帝にこっぴどく怒られた武尊さまが、『百夜恋絵巻(下)』をくれた。書物庫も焼けてしまい諦めていたので、私は狂喜乱舞。桃泥棒の私が下巻を持ち逃げすることを危惧した帝が、避難先へ持っていっていたらしい。そこまで卑しく思われていたのか。
夜にはハクさまに頼んで、憧れの紫小納言先生と通話をする。初めての女友達が先生だなんて、幸せすぎる。
清玄さんは陰陽師に嫌気がさし、都で占い屋を開いた。美男子の占いがよく当たると評判で、モテモテらしい。
今日は武尊さまと、お揃いの単躯突布を着て走りながら、その店へ向かっている。秋の山は色づき、道には紅葉や楓の葉が落ちていた。
「私も占ってもらいたいです」
「小鳥は大吉だろう?」
武尊さまがそう言ったそばから、私は濡れた葉で滑って転んだ。衣を捲ると、膝からほんの少し血が出ていた。
「大丈夫か?」
武尊さまが手を差し伸べてくれる。
「生まれて初めて転びました」
ぽつりと呟いた。
「痛いです」
「転ぶと、痛いものだ」
武尊さまは笑わずに、頷いてくれた。
「痛い」
びっくりして、涙が出た。
「わ、あわ、な、泣くほどにかっ」
大きな体で狼狽える武尊さまがおかしくて、そして初めて感じた自分の痛みが嬉しくて、私は泣きながら笑った。
「痛かったな」
武尊さまが困った顔で頭を撫でてくれる。そして、
「痛いの痛いの飛んでいけ」
と、言ってくれた。
「うふふ」
その優しいおまじないが嬉しくて、私は笑顔になった。
「痛くてもう歩けません」
すん、と鼻をすする。
「だっこ!」
言って、両腕を広げた。
大きな手が伸びてきて、私を丸ごと抱えてくれる。
痛いのも、へっちゃらだ。
おわり

