私、籠目小鳥の最初の罪は、取り上げてくれた産婆をぎっくり腰にしたこと。
次に、
「この子は周りに不幸を呼ぶ! あと、ちょっと感じが悪いくらいモテる! 男を狂わせる!」
と叫ぶ予言者のもとから、千年仕えた霊亀を逃げ出させたこと。
母も、怪しい金色の瞳と、確かに人に不幸を呼ぶ私を嫌うようになった。
「不治の痔もお前のせい!」
と言われたが、それはさすがに知らない。
私がそういう星の下に生まれた?
いいえ。
原因は全て、父にある。
父は、私の誕生前に病死した。
余命宣告された彼は、夢で見た娘を世界一かわいいと思い込み、この子を守らねばという思いに取り憑かれてしまった。
呪術や秘術、儀式と名のつくものなら何にでも手を出し、「娘の安全」を祈った。
魔除けに羊百頭の生き血、病除けに山一つ焼き、祈祷に坊主千人を呼んだ。床一面の守護石、壁一面の護符。娘に害をなす者と、まだ見ぬ婿用の藁人形には予め五寸釘まで打ち込んだ。
母は命の残火を燃やす夫に感動し励ました。ここで止めていれば、不治の痔にもならなかったのではないか。
そうした儀式も守護も、一つずつには大した意味がなかったのかもしれない。
けれど、父の執念がそれらに意味を与えた。
愛情という鍋にあらゆる儀式や呪術を放り込み、過保護と執着でぐつぐつ煮込んだ結果、術同士が結びつき、娘を守ることにだけ絶大な力を発揮する特級魔術になってしまったのだ。
その過保護な術は、私を、災難や病気、怪我、転倒、果ては深爪からも守ってくれた。
問題は、その守り方だ。
不幸そのものを消すのではない。
私の不幸を、周囲の誰かに肩代わりさせるのだ。
さらに悪いことに、私は父が夢で見た通りの姿に生まれ、「ちょっと感じが悪いくらいモテ」た。
ただし、まともな男は不幸を呼ぶ女を避けるので、残ったのは、過保護術にも怯まぬ変人ばかり。
自分の毛で編んだ髪飾り、爪入りのお守り、血文字の恋文が山ほど届いた。私との子孫の名前を七代先まで考えて送る者までいた。
予言通り、私は周りを不幸にし、男を狂わせる女に育っていった。
そんな私を怖がらず遊んでくれたのは、皇子さまだけだった。お互い友達がいなかっただけだが。
御所の庭で、私は不幸体質を恐れられ、皇子さまは暗い顔や鈍い動き、蚊の羽音より小さな声のせいで避けられていた。怪我をすれば従者たちが「痛いの痛いの飛んでいけ」の大合唱、一緒に遊んだ子どもたちは、泣かせるなと叱られる。
親に「皇子とは仲良くなさい」と押しつけられても、そりゃ誰も遊びたがらない。私の目から見ても、皇子は退屈な子だった。
穏やかな四季に恵まれ、海も山も田畑も豊かな瑞穂の国。その未来を担うのがこのぼんくら皇子とは、幼い私ですら不安だった。
「この本面白いですよ。武尊さまも読みますか」
欅の枝で本を読んでいた私は、あちこちをうろうろしながらどんぐりを集めている皇子さまを見下ろした。
結った黒髪、緑の水干姿。武尊さまは木登りができないので、木の上に逃げてしまえば一緒に遊ばなくてすむ。
彼はぼんやりした目で何か返事をしたけれど、聞き取れなかった。
そこへ強風が椚の木を揺らし、皇子さまの頭上にどんぐりが降り注いだ。彼は小さく「きゃあ」と言ってしゃがみ込んだ。顔を上げたあたりでもう一粒落ちて額に直撃、涙目になっていた。
「ほら、私は不吉だと何度も言ったでしょう?離れて遊んでくださいな」
やれやれ。私はちっとも寂しくないので、遠慮なくどこかへ行ってほしい。
「平気だもん」
俯いた武尊さまが珍しくはっきり言ったので、私は驚いた。でも、皇子に何かあれば叱られるのは私だし、私を叱れば従者が不幸に遭ってしまう。
「じゃあ、私が向こうに行きますね」
枝から降りて歩き去ろうとすると、皇子さまは慌ててついてきて、私の手を握った。
父はいない、母も従者も私が嫌いだ。「痛いの痛いの飛んでいけ」とおまじないをしてもらったこともなければ、手を握られた記憶もない。私は武尊さまの手の温かさに、不覚にも泣きそうになってしまった。
握り返そうかと迷っていたその時、今まで快晴だった空に暗雲が立ち込め大粒の雨が降り出した。急いで避難したけれど、皇子さまはびしょびしょになってしまった。
「皇子さまに近寄らないでとお願いしたはずです!」
慌ててやってきたお世話係が言ったが、すぐに逃げるように皇子を連れて行った。けれど、濡れた床で滑って頭を打ち、私を睨んだ。きっと私のせいなのだろう。
十歳になった時、私の噂を聞きつけた異国の王族から、私を渡さねば艦隊を出すと文が届き、さらに、私と目が合った帝まで目の色をわずかに変えたのを皇后さまが見逃さず、ついに私は、南の無人島へ行くよう命じられた。
帝の温情で衣食住は保証され、欲しいものは何でも持っていけるし、後からでもすぐ届けるという。家具も化粧道具も一級品。
私は丁寧に島流しの刑にあったのだ。母はもちろん、金で釣られる従者すら来なかった。
「では、どうか私のことは、死んだことにしてください」
私の望みは、それだけだった。変な文の差出人たちも、異国の王族も、これで放っておいてくれるだろう。
そうして、私は死んだ。
それから七年。
死んだはずの私に、帝から手紙が届いた。皇子と結婚せよとの勅命だった。

