私の首筋に深く顔を埋め、彼は大きく息を吸い込んだ。
鍛え抜かれた大人の男の体躯。
分厚い胸板から伝わる熱と、彼から微かに香る伽羅の匂いに、私の心臓が跳ねる。
しかし、私を抱きすくめるその腕は、どこか縋るように震えていた。
「……煩いんだ。ずっと、耳元で何百という怨嗟の声が喚いている」
彼の声は、宴の席での傲慢な帝のそれとは別人のように、ひどく弱々しく掠れていた。
それはまるで、暗闇と雷に怯え、私の膝にしがみついて泣いていたあの夜の少年のようで――。
私はふと浮かんだ昔の面影を振り払い、小さく息を吸って、彼の背中にそっと手を回した。
私の中の浄化の気が彼の体を巡り始めると、煌星様は心地よさそうに小さく唸り、強張っていた広い背中からゆっくりと緊張が解けていくのがわかった。
荒かった呼吸が次第に規則正しいものへと変わり、彼から立ち上っていた冷たい『穢れ』が、夜の空気に溶けて消えていく。
「やはりな……随分と、楽になった」
やがて、私の首筋に埋もれていた頭が上がり、至近距離で彼と視線がぶつかった。
先ほどの苦悶に満ちた顔はどこへやら。
そこには、すでに『好色な覇王』としての、余裕めいた艶やかな笑みが戻っている。
「っ、よ、よかったです。では、お役目も済みましたし、私はこれで……」
「どこへ行く」
慌てて身を引こうとしたが、背中に回された腕がそれを許さない。
それどころか、彼は長い指で私の頬をなぞり、逃げ道を塞ぐように御帳台の奥へと私を押し戻してきた。
逞しい体躯が放つ雄の圧に、心臓が跳ね上がる。
「俺の痛みを取ったから終わり、とでも思っているのか?」
「え、っと……?」
「ここは閨だぞ。せっかく妃として召し上げてやったんだ。ここから朝まで、大人の愛の戯れというものを教えてやろう」
とろんとした熱っぽい瞳が、私の唇をねぶるように見つめてくる。
耳元で囁かれる甘く低い声は、間違いなく数多の女を狂わせてきた凶器だ。
「しゅ、主上、私はそのような役目では……っ」
「いいから、目を閉じろ。お前を可愛がって……」
ぐい、と麗しの貌が近づき、私はたまらず目をかたく瞑った。



