いつも塩対応だった義弟の溺愛スイッチを押してしまったようです

「おま……っ」
「訳分かんねえとか、おまえが言うからだろ。きっちり脳みそ回転させろよ、ガチで頭からばりばり食われんぞ」

 はあ、と溢れた溜め息にすら、どうしようもない色気が乗っていて、俺の目は佑士に釘づけだ。どうしよう。
 嫌がらせとか、からかってるとか、そんな雰囲気じゃない。佑士は、本気だ。本気で俺にキスをしたんだ。

「……初めてだったのに、ふざけんなよ」

 やっとのことで抗議の言葉を絞り出せば、佑士は喉の奥で笑った。体が密着してるもんだから、押し殺された艶のある笑い声がダイレクトに響いてきて、すごく落ち着かない。背筋の辺りの神経が剥き出しになったみたいにぴりぴりする。
 
「煽ってんの?」
「何が!?」
「初めて、か。だよなあ。おまえ、女の影全ッ然ないもんな」

 うるさい、うるさい、どうせおまえと違ってモテないよ。女友達すらいないんだからな。
 そんなこと口にしたらしたで虚しいだけだから、ぐっと呑み込む。
 佑士は俺から少し身を離すと、真正面から視線を合わせてきた。
 親指の腹で、下唇をなぞられる。
 どうしていいか分からなくて、俺は身動きできずに固まったままだ。
 佑士が口角を上げた。

「玲、あんま嫌そうじゃないのな」
「は?」
「だって、逃げないじゃん」
「それは、佑士が……」
「うん、俺が?」

 ——おまえが、俺を見てるからだろ……。

 いつもみたいに、会話をしていても目を逸らされたりしない。
 俺が疎ましいっていう態度とは真逆の、大事で大事でたまらない、って錯覚させる仕草で俺に触るから、だから俺もおかしくなってるんだ。
 さすがにそんな恥ずかしい台詞は口にできなくて視線を泳がせると、佑士は俺の唇の端っこに、もう一度キスを落としたあと、額に自分の額を押しつけた。
 おい、さりげなく二回目も奪うな。っていうか額、やっぱり熱い。絶対、熱がある。

「佑士、なあ」
「あー……もうクソかわいーな……頭、沸騰しそう」
「それは熱のせいだ! 佑士、とりあえず熱測って、そんでベッドに横になれって」
「ちげえよ、おまえのせいだよ」

 俺のせいだと一歩も引かない佑士を宥めすかし、なんとかベッドに寝かせることに成功したけど、現在、右手を人質に取られている。いや、手質?

「あの、そろそろ教室に戻りたいんだけど」
「やだ」

 やだってなんだよ、おまえこそ、いきなり可愛くなってるじゃん。
 そんな風に思ってしまってから、ぶんぶんと左右に頭を振る。
 たぶん、佑士の風邪が伝染ったんだ。頬に熱が集まってるのも、そのせいだ。
 
「だって玲、手ぇ放したら逃げるだろ」
「逃げるっていうか、普通に授業あるし」
「具合悪い弟のお願いは聞いてくんねえの?」
「今までさんざん塩対応だったくせに、いきなり甘えられてもな……」
「ああ……それはさ」

 廊下から速足のヒールの音が聞こえてきて、俺たちは二人して口をつぐむ。
 足音の主は保健室の前で止まった。