いつも塩対応だった義弟の溺愛スイッチを押してしまったようです

 佐藤(仮)を上回る戸館の大声に、異変を察知した他のクラスメートたちが、何事かと集まってくる。その中には桧垣たちもいた。
 
「じゃなきゃおかしいもんな。ゆーしと新見の組み合わせなんて、全ッ然釣り合わねえし。めっちゃすっきりしたわ」

 うるさい。
 うるさい、うるさい、うるさい。
 釣り合わないって、そんなの、おまえに指摘されなくても俺が一番よく知ってるよ。
 確かに、俺は佑士に相応しくない。
 目立たないから。見た目も、頭の作りも、運動神経も、大してよくないから。同性だから。家族だから。
 だけど、俺が佑士を好きだって思うのも、気持ちを伝えたいって思うのも、俺の自由だ。
 おまえなんか関係ない。おまえが入る余地なんてない。
 俺と、佑士の話だ。

「……佑士」

 俺は意を決して佑士を見上げた。
 佑士に彼女がいたって関係ない。
 いや、さすがにそれは関係あるのか。俺と佑士と佑士の彼女の問題になって……じゃあやっぱり、やめておいた方がいいのかな。
 決意した先から、優柔不断が顔を出す。クラスメートのみんなが俺たちへ注目してるせいもある。ギャラリーが多すぎるんだよ。
 向かい合った佑士はというと、険しかった表情をやわらげ、何事か思案するように目線をさまよわせた。最後に俺を捉えると、有無を言わさず二の腕を掴んで引き寄せる。
 つんのめるようにバランスを崩した俺の視界が、一気にブレザーで埋まる。
 佑士の胸へ飛び込む格好になっていた。
 体幹がしっかりしているのか、俺がぶつかってたくらいじゃ、びくともしない。

「義理の兄弟だからじゃねえよ。俺がこいつに片想いしてんの。こいつは俺に付き合ってくれてただけ」

 ざわめきが上がり、俺は焦って佑士を振り仰ぐ。
 なんだ、この状況。
 佑士は含みありげな笑いを漏らしてから、声を張り上げた。

「だから高校も俺が合わせて、ここにした。軽くストーカーだろ」

 そんなこと、みんなの前で言う必要ない。変な噂が立ってしまう。
 俺はこれ以上口を開かないようにと目で訴えたけれど、佑士は笑みを絶やさずに、俺の先にいる誰か——おそらく戸舘を挑むように見た。
 
「釣り合わねえとか、何言ってんの? 俺が、玲に釣り合ってねえって意味なら納得すんだけど」
「……キモ」

 小さく、そう聞こえた。
 戸館の口からだった。

「キモ、キモ、キッッモ! おかしいだろ、男同士とか!」