いつも塩対応だった義弟の溺愛スイッチを押してしまったようです

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 三月最初の金曜日に行われた球技大会、男子バレーボールチームの結果は暗澹たるものだった。頼みの綱の男バレ部員が二人、インフルエンザで倒れたからだ。
 対照的に男子バスケットボールチームはコンディション最高で、男バス部門の総合優勝に輝いた。
 早々に退場したバレーボールチームも同じ体育館での競技だったから、俺も佑士の試合を見物していた。相変わらず上手かったよ、土壇場でスリーポイントとかばっちり決めてたし。部活に入っとけばもっと強くなっただろうに、あいつ、面倒くさがりだからな。もったいない。
 優勝に貢献した佑士へ、結局、俺は声をかけそびれた。
 校舎裏で女の子といるのを目撃してしまった日から、まともに会話を交わしていない。
 佑士は時々、あの子と絡むようになった。廊下で話しているのをたまに見かける。
 友達連中に「彼女かよ」と、からかわれると、「ちげえよ」と否定しているものの、周りは佑士の彼女扱いだ。
 俺の出る幕はもうない。
 翌日の昼から行われる打ち上げになんて出来れば参加したくなかったけど、会費を既に払っちゃってるから、食べるだけ食べて、さっさと帰ろう。
 土曜日当日は、佑士と同じ電車にならないよう、かなり先に家を出た。
 学校のある駅から少し離れた乗換駅の商業ビルに入ったしゃぶしゃぶ食べ放題で存分にお腹を満たし、二次会のカラオケ店へ向かう途中で、幹事に断りを入れるため桧垣たちから離れる。
 いったん駅前の円形広場で、二次会参加者の人数を再確認するみたいだから、ちょうどいい。カラオケ不参加を伝えよう。
 幹事は佑士のグループの近くにいた。
 植え込み脇のベンチに座って、カラオケの予約画面を確認しているらしい彼に声をかけようとした時、その隣でスマホをいじっていた同年代の男が、ふと顔を上げた。至近距離で目が合う。

「あれ? ——あー、新見、新見か! 久しぶり!」
 
 俺も見覚えがある。中学の時に一度同じクラスになった、名前はなんだっけ……佐藤、だったかな?
 佐藤(仮)はテンション高く俺に挨拶した後、いぶかしげにこちらを窺うクラスメートたちの群れの中に、目ざとく佑士を見つけたようだった。

「へえ、宮之原もいるじゃん。え、おまえら、マジで同じ高校行ったんだ。中学じゃ、あんま一緒にいるところ見かけなかったけど、実は兄弟仲いいのな」
「ちょ、佐藤……!」
「『新宮兄弟』、地元じゃ有名だったもんな。新見と宮之原。——なあ、親、籍入れたの? おまえも宮之原になってんの?」

 後半部分は若干声を潜めてくれたけど、全く配慮になってない。
 佑士が険しい顔つきで俺たちの方にやってくる。
 佐藤(仮)はそれに気づかず、せわしなくスマホ画面へと目を落とし、「やべっ」と叫んでから俺に笑いかけた。

「友達、改札で待ってるらしいわ。すぐ行かねえと。じゃあな、宮之原兄と弟! また、どっかでなー!」

 悪意は微塵もない。ただ、ひたすら無神経なだけ。そして場の空気も読まない。
 降って沸いてあっという間に去っていった佐藤(仮)によって、我が家の複雑な個人情報が呆気なく漏洩してしまった。
 まあ、義理の兄弟だっていうことくらい、みんなに知られたって、今更か。
 佐藤(仮)の消えた方向を睨みながら、静かに佑士が俺の傍らへと立った。
 固い表情を崩さない佑士に、眼差しだけで「困ったな」とアイコンタクトしようとしたら、それを遮るかのように戸館が耳障りな笑い声を上げた。

「ははっ、なんだ、そっか! ゆーし、兄弟だから、そいつに構ってやってたんだ。幼馴染なんて嘘じゃん」