いつも塩対応だった義弟の溺愛スイッチを押してしまったようです

「いいとこ全部持ってくなよ、槙ィ……」
 
 桧垣がうめく。
 慌てて槙から桧垣に目を移すと、高校で最初に出来た友人は、槙に負けじとばかりに言い募った。

「最近おまえ、宮之原といる時、いっつも楽しそうだった。ずっとつるんでた俺らが妬けるくらい、いつも笑ってた」
「俺は別に妬いてないけどね」
「俺もだよ! たとえだ、たとえ! なんつうか、友達取られたみたいな……けど、なんか違ったんだよな。で、新見にとって宮之原は友達とは別枠、って解釈したら納得がいった」
「だから兄弟だし、友達とは違うっていうか……」
「ふざけんな」
 
 いや、俺だって、さすがにもう自分の気持ちからは逃げられないって理解してる。
 けど、今更だ。
 一度拒んでおいて、佑士になんて言ったらいい?
 やっぱり好きです? 兄弟以上に想ってる?
 ……向こうからしたら、それこそ、ふざけんなって感じだろ。
 佑士は俺を、『おまえが好きだ』っていう目では見なくなったんだ。桧垣たちは、俺が恋愛的な意味で好かれてることに気づいてたっていうけど、そんなの、振られて一気に冷めたかもしれない。
 ——あなた自身がどうしたいのかが最も大切です。
 AI、質問した時とは状況が違うんだ。
 ——あなた自身がどうしたいのかが最も大切です。
 俺は、俺はさ、そりゃあ、もし許してもらえるなら、もう一度、やり直したい。みっともなく足掻いてみたい。
 だって、黒歴史積み上げて生きていくのが人生みたいだから。
 
「……俺、間に合うかな」

 か細い呟きは耳ざとい友人たちに拾われる。

「間に合わないなんてことはねえと思うけど、万が一があったら骨は拾ってやるよ」
「当たって砕けておいでー」
「……おまえら、一応俺の味方なんだよね……?」
 
 ただの軽口だよな。
 縁起の悪い発言ばかりする友人たちに突っ込みながら、家庭科室を出るため立ち上がる。さすがに、そろそろ球技大会の練習に出ないとまずい。
 二人を引き連れながら部屋を出て、見るともなしに廊下から何気なく外を眺めおろした俺は、視界の先に佑士の姿を見つけて固まった。女子といたからだ。茶髪を結い上げてお団子にした女の子には、どこかで見覚えがある。
 本校舎裏の中庭の陰。
 定番の呼び出し場所だ。

「——万が一、起きたか?」
「こら、そういうところだよ、桧垣」

 後ろでじゃれ合う桧垣と槙の声が、遠くで聞こえる。
 佑士は人気があるけど、ああいった告白を受けることはまずない。呼び出しを受けても、本人がそこに向かわないらしい、って聞く。
 それが今回は、女子と二人きりでいる。
 後悔先に立たず、覆水盆に返らず。
 俺、チャンスの神様の前髪、掴みそこねた?