いつも塩対応だった義弟の溺愛スイッチを押してしまったようです

 帰りの電車は比較的空いていて、俺は空席を見つけて座ることが出来た。
 佑士はその前に立って、スマホをいじっている。
 次の停車駅で、隣にいた人を含むたくさんの乗客が降りていったから、俺は佑士のジャケットの裾を引いて着席させた。
 その拍子に、彼のスマホ画面が目に入る。

「佑士、エンスタやってんの?」

 アカウント名に『Yu_shi』が入っているし、写真も結構投稿されている。
 最新の投稿は、今日観るはずだった映画のポスターの写真だ。そういえば、さっき俺がトイレに行ってる間、佑士はポスターの近くで待ってたっけ。
 鍵アカだし、佑士のものにしてはフォロワー数も少ないから、連絡先交換用かな。

「おい、見んな」
「あ、俺が知っちゃ駄目なやつ? ごめん」

 素早く画面を隠されたから、俺は素直に謝った。
 勝手に覗いたら失礼か。俺、佑士のアカウント知らなかったしな。今までは、教えてもらえるような関係性じゃなかったし。
 佑士は珍しく、困ったように目を伏せた。
 最近はこうやって新しい一面を発見してばかりだ。

「馬ッ鹿、ちげえよ。別に、おまえに見せられない訳じゃない。記録用みたいなもんで……俺が恥ずいだけ」

 少し躊躇ったそぶりのあと、諦めたようにスマホを手渡される。
 
「見ていいの?」
「本当は見せたくねえけど、こうなったら仕方ねえよな」

 俺は遠慮なく、スマホ画面に視線を落とした。
 アップされている写真は、あまり多くない。
 でも、どれも見覚えがあった。
 二、三日前に作った、あの適当な豆腐とわかめの味噌汁。
 俺の首にも巻かれた、佑士愛用のマフラー。
 この間、家族で行ったファミレスの外観。急いで撮ったのか、ちょっと手ブレしてる。
 その下は、いつだったか、たぶん土曜日辺りの昼ご飯に俺が用意した、残り物の具材をぶち込んだ炒飯。
 中学の卒業記念にクラスメートと水族館へ行った時、家族用は魚の形のクッキー缶にしたものの、同じ卒業生だし佑士の分もと思って買った、鮫のぬいぐるみのキーホルダーもある。え、キーホルダー、喜んでくれてたのか。要らないって言われるかなって怯えつつ渡したら、突き返されはしなかったけど、「ん、サンキュ」と非常に薄い反応だったのに。
 画像はまだある。
 2-Cのクラス名が表示されたプレート。
 窓際の机。
 それから、——保健室の入り口。
 スクロールしていくうちに、寝ている誰かのつむじが映っている写真が出てきた途端、佑士が俺からスマホを取り上げた。

「おしまい」

 この目で見たことはなくたって、自分の後頭部くらい分かる。

「……これ、俺も被弾した感じ……まじで恥ずい」
「人のスマホ盗み見たのはおまえだろ」
「わざとじゃないし! 横にいるんだから目に入っちゃうじゃん」

 そっぽを向いた佑士のニットから覗く首筋が赤いし、俺の頬もきっと負けず劣らず真っ赤に染まっているだろう。