いつも塩対応だった義弟の溺愛スイッチを押してしまったようです

 俺たちはお互い無言のまま外へ出た。時間がないので、急ぎ足で駅まで歩く。
 正直、疲れた。出掛ける前から精神力が削られた気がする。
 少し体がだるいな。
 でも、せっかくだから楽しまないと。
 休日の昼間の駅は混み合っていて、電車も立ちっぱなしだった。ショッピングモールがある特急停車駅に辿り着いた時には、体調がどんどん悪くなっていた。

「おまえ、顔色悪くないか」
「んー、ちょっとだけ寝不足だから……」
「……止めとくか? 映画」
「なんで? 行くよ」

 公開されて二週目の評判上々アクションもの洋画だし、折角だから観てみたい。
 密室になるエレベーターは苦手だから、エスカレーターで最上階まで上がる。俺のエレベーター嫌いを知っているから、佑士も何も言わない。
 ロビーに到着した時には、もう開演時間が迫っていた。
 飲み物を買っていたら間に合わなくなりそうだから、まっすぐスクリーン入口に向かう。その間も、佑士は気づかわしげに俺の様子を窺っていた。
 シアター内は、既に照明が落とされていた。別の映画の予告動画が流れている。
 周囲の暗さに、足がすくんだ。
 でも、先を行く佑士には勘づかれちゃいけないと思った。
 佑士の後ろ姿だけ見つめて、予約してくれていた座席に着く。中央通路すぐの、後部ブロックの一番前列、右端とその隣だ。出入り口からも近いから、遅く入っても周りにあまり迷惑をかけることなく座ることができた。
 ちょっと画面が見えにくいけど、左隣に佑士がいるだけで反対側が通路だから、まだ落ち着く。
 俺は大きく息をついた。
 佑士が俺を横目で流し見たかと思うと、耳元へ唇を寄せた。
 
「つらくなったら言えよ」
 
 吐息がかかる。
 反射的に身を離してから、俺はこくこくと頷いた。暗い中でも気配で理解したようで、佑士も画面へと向き直った。