いつも塩対応だった義弟の溺愛スイッチを押してしまったようです

「新見と宮之原ってさ、実は幼馴染なんだよな」

 俺は勢いよく桧垣を振り仰ぐ。
 その桧垣はというと、佑士を真っすぐに見据えていた。
 すごいな、桧垣。握り締めた拳が小刻みに震えてるけど、それでもすごい。

「幼馴染なんだろ、なあ、新見」
「っ、うん」

 桧垣の助け舟に、俺は飛びついた。どうして桧垣がこんな嘘をついてくれるのかは謎だけど、今ここで兄弟だってばれるよりは、多分ずっとましだ。
 
「だから、ここ二人が普通に仲良いっていうか、一緒に帰るとかは、別におかしな話じゃないだろ。今までクラスで全然会話してなかったのが謎なくらいでさ。な、槙」
「……うん、そうだね」
「ええと、俺と佑士じゃあまりにもタイプが違うから、学校ではなんとなく話しにくくてさ。黙ってた。そうだよな、佑士」
「……まあな」

 俺の必死の目配せに応えて、つまらなそうに佑士が頷いた。
 素っ気ない口調とは裏腹に、俺の頭へ、ぽすんと手を置き、髪をかきまぜる。あんまり触ると髪型が乱れるからやめてほしい。あと、周りの目線も痛いし。ほら、教室が変にざわついた。
 ひとしきり俺と一方的なスキンシップを取ってから、佑士は踵を返す。
 
「放課後な。先に帰んなよ」

 自分の席へ戻っていく佑士の背中に、何も言い返せなかった。
 戸館がまだ何か言いたげにこちらを見据えていたけれど、一瞬目を大きくしてから唇を引き結んだ、ように見えた。
 窓際の一番前の席、大きく引いた椅子に腰を下ろした佑士は、頬杖をつきながら戸館とその隣の篠原を睨んだ。

「戸館、篠原。おまえらには、いちいち教える必要もねえから言わなかったけど、俺と玲ってめっちゃ仲良いから。もちろん、おまえらより。そこんとこ、しっかり覚えとけよ」
「……ごめん、ゆーし……」
「……なんか、ごめんね」
「謝るなら俺にじゃねえだろ。なあ」
 
 そして首を巡らせ、こちらに流し目を寄越す。

「桧垣、だっけ。ありがとな」
「お、おう!」
「玲も——」

 佑士が何か言いかけたところで、須田センが入ってきた。

「おはよう! なんだ、まだ席についてないのか? もうホームルームの時間だぞ。早く座れ」

 一気に場の空気が切り替わり、その場はうやむやになった。皆、そそくさと自分たちの席へ戻っていく。
 俺的には助かった。戸館に謝らせるつもりだっただろ、佑士。俺はそんなの望んでない。水面下でわだかまりが残るだけだから。
 上の空のホームルームが終わり、一限開始までの短い隙間時間を縫って、俺はスマホを取り出した。メッセージアプリのトーク画面を開いて、佑士へメッセを送る。

『おい』『さっきのあれ何だよ』

 すぐに既読がつき、返信が届いた。
 
『いきなり悪かった でもおまえも悪い』

 俺もかよ。
 
『うるさかったからか?』
『ちげえわ 俺の目の前でほかの男に抱き着くな』
『はああああ?????』

 はああ、と本当に声を上げかけて、慌てて口元を抑える。

『桧垣たちだぞ』『ノリだろ』『男友達!』

 駄目押しとばかりに怒りのスタンプも併せて連打すると、
 
『アホ』『ふざけんな』『男も女も友達も関係ねえ』『好きなやつが楽しそうに別の誰かと密着してるのを見てスルーできるほど人間できてねえんだよ俺はいい加減分かれっつのおまえ』

 返ってきたのは怒涛の即レス、しかも改行なしの長文込みときた。
 反論の文字を何ひとつ打てないまま、俺の指はスマホ画面の上をさまよう。
 しばしの間を空けて、さらに二通届いた。

『でもこの状態で』『独占欲出して悪かった』

 ……独占欲、なのか。さっきの。
 佑士の背中を横目で勢いで眺めやったけれど、当然、振り向いてなんかくれない。
 そのまま一限目に突入してしまった。
 何度スマホを盗み見ても、もうトーク画面は動かない。
 俺はふわふわと落ち着かない気分のまま、数Bの教科書を意味もなくめくり倒していたから、見かねた先生に注意された。全部全部、佑士のせいだ。