いつも塩対応だった義弟の溺愛スイッチを押してしまったようです

「ん? どうしたの、新見」

 申し訳ないけど槙の問いかけをスルーしてしまった。
 いや、もう、はっきり睨んでるじゃん、佑士。頼むから、今まで通りの無関心で頼むよ。
 そんな俺の願いも虚しく、佑士の険しい表情に、目ざとく戸館が気づいた。

「ゆーし? なんかあったん?」
 
 目線の先を追うようにして、俺たちに辿り着いたみたいだ。思わず俺は顔をそむける。
 騒がしいはずの本玲前の教室が、途端に静けさに満ち、戸館が鼻で笑うのがやけに大きく響いた。
 
「あー、さっきからはしゃいじゃってんの、あそこの地味男くんたち? うるせえし、痛いね」

 心臓がじかに握りしめられたかのように、きゅっと苦しくなる。こういう空気は嫌いだ。きっと誰だって好きじゃないと思う。この空気を生み出している本人と、それを面白がる人種以外は。
 でも、身の程をわきまえなかった俺も悪い。変に目立つんじゃなかった。このところイレギュラーな出来事ばかりで、ちょっとテンションが上がりすぎてた。俺みたいなのは、もっと静かにしてなきゃならなかったのに。
 俺は窓際を窺い見た。
 佑士はまだこっちに視線を向けている。
 佑士だけじゃない、彼の取り巻きたちも。
 戸館におもねるように、篠田がくすくすと笑った。彼女につられたのか、ほかの女子が何人か、ひそひそと囁きながら含み笑いを漏らす。
 困った顔をしたのがスポーツマン坂下で、生徒会の野田は我関せずの姿勢を表すように横を向いた。
 そして佑士は——片手を後頭部の後ろに当てて襟足をかきむしったかと思うと、傍らの戸館を押しのけ、こちらへ向かってきた。

「え、おい、ゆーし?」
「佑士ー、殴っちゃ駄目だよー?」

 言い出しっぺのくせに焦っている戸館と、楽しげに煽る篠田を無視して、佑士は俺たちの前までやってきた。
 吐息をついて俺を見下ろし、少しだけ視線をさまよわせた後、

「……玲。今日、やっぱ一緒に帰ろうぜ」

 と口にした。再び、おかしな沈黙が生まれる。

「どうせ同じとこに帰んだからさ、別にいいだろ」
 
 確かに、はしゃいだ俺が悪かった。今、庇ってくれようとしてるのも理解してる。けど、俺を意味ありげに睨んだ佑士にだって責任はあるはずだ。こいつが俺のことをじっと見ていたせいで、戸館が不審に思ったんだから。
 なのに佑士は俺の許可も取らず、勝手に学校での「兄弟」を解禁しようとしてる。
 
「……宮之原くんと新見って知り合いなのかな? 話してるの見たことないよね」
「ね。同じとこに帰るってどういう意味だろ」

 桧垣の後ろの席の女子たちが耳打ちしあう。
 どうしよう、うまい言い訳が思いつかない。
 俺は、ちょっと泣きそうになりながら顔を伏せる。
 桧垣が俺と佑士の間に割って入ったのは、その時だった。