いつも塩対応だった義弟の溺愛スイッチを押してしまったようです

 やいのやいの言い合っているうちに通勤通学ラッシュで混み合う駅へ着いてしまった。マフラーはまだ俺の首元にある。外そうとするたび、「まだ寒いから巻いとけ」って止められるから、仕方なく。
 それなりに混んでいる私鉄の車内、俺を乗車口とは反対側のガラスドアに立たせて、その前で防波堤になってくれている佑士の顔が、見れない。どうしても見れない。横顔ならともかく、真っ正面からはちょっと無理だ。
 昨日、一緒に食べた親子丼は、全然味がしなかった。
 俺は二人きりの空間が気づまりになってしまって、すぐに部屋へ上がったし、たぶん佑士も同じだ。
 夕飯の時だって、ろくな会話は交わせなかった。ただ、俺たちが話さないのはいつものことなので、両親は特に不審には思ってなさそうだったけど。
 「返事はまだいらない」という佑士の言葉に甘えてしまっている。
 なりゆきで佑士と登校する形になっているのを、強く拒めないのも、そのせいだ。
 一軍のこいつと歩いてるのを見られたら、周りは騒ぐに決まってる。俺たちは普段、まったく関わらないようにしてたんだから当たり前だ。
 なのに、突き放せない。
 
「……『学校では他人のふり』、だよな?」
「それはもう無効になった」
「はああ?」

 自分本位が過ぎるだろ。
 電車内なので出来るだけボリュームを抑えて、でも可能な限りの抗議を込めて声を上げる。はずみで佑士と真っ向から目が合ってしまい、思わず視線を斜め下に逃がす。
 ……負けた気分だ。
 
「最初に佑士が言い出した話なんだから、卒業まで守れよ」
「無理。家では兄弟やらなきゃならねえんだから、外でくらい許せよ」
「ん?」

 家では兄弟、続けるのか。
 なんでだろう。学校では他人のままで、家では他人のふりを解除かつ返事保留、の方が俺としてはまだ気が楽なんだけど。

「なあ、なんで——」

 問いかけようとしたところで、乗り換え駅に到着する旨のアナウンスが入ったから、俺はいったん疑問を飲み込んだ。
 JRへの連絡口を歩いている間は覚えていたけれど、ちょうど階段を下りたあたりで同じ高校の制服を見かけたものだから、そちらに気を取られて尋ねるのを忘れてしまった。