いつも塩対応だった義弟の溺愛スイッチを押してしまったようです

 俺は口をつぐんで佑士を見やる。
 
「俺だって、ちゃんと兄弟になるつもりだった。あの頃のおまえ、子供っぽいし体もちっせえしで、兄貴っていうよりは弟って感じがして、面倒くせえけど、家族になったからには世話してやらなきゃと思った。ずっと一人っ子だったから、兄弟っていうのに多少の憧れもあったしな。けど、おまえは案外しっかりしてて、別に俺の助けなんかなくても、一人でやれる奴だった」
「……そんなことない、佑士にすごく助けられたよ。いてくれて心強かった」
「だったらいいけどな。……おまえといるのは新鮮で楽しかった。普通の兄弟になれるはずだった。そうじゃなきゃいけなかった。でも、気が付いたら俺の方が無理になってた」

 佑士の言葉は、まるで罪人の懺悔みたいだった。
 俺は佑士の隣の椅子を引き、静かに座る。近づく気配に気づいただろうに、彼は俺の方を見なかった。

「ずっと隠しとくつもりだったんだ。絶対受け入れられねえって思ってたから。大体、こんな気持ち、親父たちを悲しませるに決まってる」

 だから避けてた、と佑士はさらにうなだれた。
 そして表情を隠すように覆っていた手を外すと、やっぱりこちらを一瞥もせず、0点レベルの告白を絞り出した。

「ごめんな。……おまえが好きだ」
 
 その瞳にはうっすらと涙の膜が張っているようにも見えた。

「……なんで謝んの?」
「おまえは普通に兄弟やりたかっただろ。だから、ごめん」
「謝るついでに好きっていうのはどうなんだよ」
「それはさ、勢いだよ。全部、勢いつけないと言えねえだろ、こんなの」
「こんなのって言い方すんなよ、なんか嘘っぽくなるだろ」
「俺、おまえに嘘ついたことねえよ」

 不意打ちで投げつけられた殺し文句に、俺の息はたやすく止まってしまう。
 
「そ、か」

 動揺を押し隠し、神妙に頷いてみせる。
 佑士は頭を軽く左右に振り、唇を歪めるようにして小さく笑うと、やっと隣にいる俺の目を見た。

「好きだ」
「っ、それはもう聞いたって」
「おまえは?」
「……おれ、は」

 そういえば、AIも言ってた。
 どういうつもりで佑士がキスしてきたのか、まずそれを知りたくてたまらなかったからスルーしてたけど、俺の気持ちがどうなのかが一番大事、だって。
 佑士から投げられたボールは、今、俺が持っている。
 次は俺が投げ返す番だ。
 キスされて嫌じゃなかった。
 あれから佑士といると、何故だか心臓が暴れ出しそうになる。いつものだらけた自分じゃなくて、よそゆきの自分を見せたくなる。
 でも、それってイコール好き、なんだろうか。恋なんだろうか。俺は小学校低学年の頃の初恋から、ずっと女の子が好きだった。同性に興味を持ったことは一度もない。この胸の高鳴りは、間違いなく恋だろうか。単に、嫌われていたと思っていた義弟に好かれていて嬉しい、っていうだけの反応かもしれない。
 すぐに返事をしない俺に、佑士は小さく呟いた。

「おまえは俺のことどう思ってんの——なんて、まだ聞かねえからさ。今すぐ答え出さずに、俺とのこと、少しの間だけ考えてみてよ」