いつも塩対応だった義弟の溺愛スイッチを押してしまったようです

「遅くなってごめん」
「別に、調子悪かったんだし、風呂入ったらこれくらいかかるだろ。そもそも俺のせいなんだから、いちいち謝んな」
「ごめ……あっ、えっと、うん、……」

 駄目だ、すぐに謝る癖が抜けない。
 昨日は、ごめんの代わりにありがとうってヤケクソ気味に返したけど、この場面でありがとうはやっぱり違うし……。
 言葉を失って立ち尽くす俺を、佑士がぞんざいに手招いた。そういう無造作な仕草すら、すごく様になってるから、顔の作りがいいって得だ。

「ほら、突っ立ってねえで座れよ。何食いたい?」

 俺はおずおずと歩み寄り、佑士の斜め向かいに腰をおろした。
 そうしたら、

「そっちじゃなくて、こっち」

 自分の前の席を指先で叩いて、佑士が斜めに俺を見た。流し目で促されて、俺は仕方なく隣の席に移動した。

「向かい側が嫌なら、横でもいいんだけど」
「向かいの席でお願いします」
「イケメンの隣だからって遠慮すんなよ」
「自分で言うな、イケメン」
 
 悔しいけど、佑士のビジュがいいのは紛うことなき事実だ。
 親子丼の入ったプラスチック容器を引き寄せながら、佑士の自画自賛を毒づきとともに肯定する。
 あ、食器棚から取り分け用の小さいどんぶりを用意してくれてる。箸も二人分だ。本当ならこんな量、全部一人で食べても足りないくらいだけど、病み上がりなのと、ほかにも色々買ってきてるのを考慮してくれたんだろう。
 佑士の奢りだし、こいつに多めに食べさせた方がいいな。で、俺は食後にアイスをいただくんだ。帰ってきたら母さんが夕飯を作ってくれるから、その時間までの空腹を満たすには丁度いいくらいの量だな。
 蓋を開けたら、待たせすぎていたせいか、親子丼は少し冷めていた。
 取り分ける前に、いったんレンジで温めるか。俺は猫舌だから、これくらいの方が好みだけど、佑士は熱々の鍋とか平気で口にするもんな。
 丼容器を片手に立ち上がる。
 
「軽くあっためてくるわ、って、佑士、どうした?」

 肘をついたままの左手で目元を覆うようにして、佑士が俯いている。
 俺は首を傾けた。
 佑士の方はというと、そのまま微動だにせず、ただ呻いた。

「……おまえってほんと読めねえ。俺のこと意識してんのか、してねえのか」
 
 思わず親子丼を取り落としそうになって、すんでのところでこらえる。

「え、え、え?」
「人のこと軽々しくイケメンとか言うんじゃねえよ。どんな顔したらいいか分かんなくなるから、適当な感じで褒めんのはやめろ。……うっかり喜んじまうだろ」
 
 尖った口ぶりのくせに、艶のある黒髪の隙間から覗く耳が赤く染まっているし、なにより苦情の内容が甘ったるいことこの上ないから、怒られているはずの俺の頬まで火照りを帯びてくる。
 今なら聞けるかもしれない、「どうしてキスしたんだよ」って。
 口を開こうとしたその時、顔を上げないまま佑士が呟いた。

「おまえが俺と『兄弟』をやりたがってたのは知ってた」