いつも塩対応だった義弟の溺愛スイッチを押してしまったようです

 同い年の義理の弟との距離って、どう保つのが正解なんだろう。
 同じ高校、同じ二年、同じCクラス。
 廊下側の一番後ろに座る俺からもっとも遠い、窓際の一番前に、弟の少し猫背な後ろ姿がある。頬杖なんかついて、めっちゃやる気なさそうだ。
 やや襟足の長い、艶のある黒髪。いつの間にか逞しくなった肩が、着崩したブレザーの下、窮屈そうに収まっている。
 
 くじ引きでその席を引き当てた時、佑士(ゆうし)は「最ッ強にだるい席に当たったわ。くじ運死んでる」ってぼやきながら、友人の戸館の肩を面倒くさそうに叩いた。戸館の方は「ガチでやべえな、一番前とか」なんて喉の奥を鳴らして笑った。そこは元々、俺の座ってた場所だったから、胸の奥がぎゅっと引き絞られた気がした。
 佑士は懲りずに、

「席、交換してくんない?」

 と、窓際から二列目、一番後ろの特等席——席替え前の佑士の席を見事手に入れた女子へ交渉しにいって、案の定、不正の気配に気づいた担任から注意を受けていた。

「宮之原(みやのはら)、ズルするな。佐々木さんも、簡単に譲ろうとしない!」
「へえへえ」
「ごめんなさぁい」

 つまらなそうに席へ着いた佑士の広い背中を、俺は今でもたまに盗み見ている。
 一緒のクラスで良かったことなんて、ひとつもない。
 俺と佑士は言葉を交わさない。
 高校では他人のふりをしているから。
 けれど、佑士の背中を眺められるこの位置を手に入れられたことだけは、唯一『良かった』の範疇に入るのかもしれないと思う。