私は他人の関係を、外側からなら簡単に分析できる。
しかし、自分の生活を振り返ると、そこには名前のつかない関係ばかりが並んでいる。
恋人ではない。
友人でもない。
ただ、一晩だけ互いの寂しさを埋める相手。
それを自由と呼んでいるうちは、まだ楽だった。
水曜日、会社の帰りに佐伯とエレベーターで一緒になった。
「篠原さん、今日、少し時間ありますか」
「仕事ですか?」
「いえ。よかったら、食事でも」
私は一瞬、返事を忘れた。
佐伯が私を食事に誘う理由は何だろう。
仕事の相談かもしれない。単に近くにいたからかもしれない。
それなのに、頭の中ではいくつもの可能性が勝手に膨らんでいく。
「二人で、ですか」
「ほかに誰か誘ったほうがいいですか」
「いえ、そういう意味では……」
「じゃあ、駅前の定食屋で。嫌なら断ってください」
断ってください。
その言い方が、妙に引っかかった。
私が断っても、彼は困らない。気まずくもしない。きっと明日も、いつもどおり請求書の確認を頼んでくる。
それは安心できることのはずだった。
「わかりました」
駅前の定食屋は、仕事帰りの会社員で混雑していた。
私たちは向かい合って座り、焼き魚定食を注文した。
佐伯は無理に会話を続けようとしなかった。
仕事の話を少しして、最近値上がりした食料品の話をして、最後には黙って味噌汁を飲んでいた。
沈黙が苦痛ではなかった。
それが、かえって落ち着かなかった。
「佐伯さんって、休みの日は何をしてるんですか」
「家のことをしたり、本を読んだりです」
「一人で?」
「大体は」
「寂しくないですか」
聞いてから、しまったと思った。
佐伯は箸を置いた。
「寂しいですよ」
あまりにあっさり言うので、私は目を上げた。
「だからといって、誰でもいいから一緒にいたいわけじゃないですけど」
胸の奥が、ちくりとした。
「……そうですね」
私は味噌汁を飲んだ。
熱いはずなのに、味がよくわからなかった。
しかし、自分の生活を振り返ると、そこには名前のつかない関係ばかりが並んでいる。
恋人ではない。
友人でもない。
ただ、一晩だけ互いの寂しさを埋める相手。
それを自由と呼んでいるうちは、まだ楽だった。
水曜日、会社の帰りに佐伯とエレベーターで一緒になった。
「篠原さん、今日、少し時間ありますか」
「仕事ですか?」
「いえ。よかったら、食事でも」
私は一瞬、返事を忘れた。
佐伯が私を食事に誘う理由は何だろう。
仕事の相談かもしれない。単に近くにいたからかもしれない。
それなのに、頭の中ではいくつもの可能性が勝手に膨らんでいく。
「二人で、ですか」
「ほかに誰か誘ったほうがいいですか」
「いえ、そういう意味では……」
「じゃあ、駅前の定食屋で。嫌なら断ってください」
断ってください。
その言い方が、妙に引っかかった。
私が断っても、彼は困らない。気まずくもしない。きっと明日も、いつもどおり請求書の確認を頼んでくる。
それは安心できることのはずだった。
「わかりました」
駅前の定食屋は、仕事帰りの会社員で混雑していた。
私たちは向かい合って座り、焼き魚定食を注文した。
佐伯は無理に会話を続けようとしなかった。
仕事の話を少しして、最近値上がりした食料品の話をして、最後には黙って味噌汁を飲んでいた。
沈黙が苦痛ではなかった。
それが、かえって落ち着かなかった。
「佐伯さんって、休みの日は何をしてるんですか」
「家のことをしたり、本を読んだりです」
「一人で?」
「大体は」
「寂しくないですか」
聞いてから、しまったと思った。
佐伯は箸を置いた。
「寂しいですよ」
あまりにあっさり言うので、私は目を上げた。
「だからといって、誰でもいいから一緒にいたいわけじゃないですけど」
胸の奥が、ちくりとした。
「……そうですね」
私は味噌汁を飲んだ。
熱いはずなのに、味がよくわからなかった。



