渇いた夜には酒と男と処方箋 〜目立たない事務員サキの、秘密のSNS恋愛相談室〜

夜十一時四十分。

自宅のテーブルには、缶ハイボールと冷めたコンビニ弁当が並んでいた。

相談者から返信が届いていた。

『ありがとうございます。彼に聞いてみました。そしたら、今は仕事が忙しいから、そういう話はもう少し待ってほしいと言われました。やっぱり、私が焦りすぎなんでしょうか』

私は画面を見つめた。

仕事が忙しい。

恋愛における万能の延期理由だ。

ただ、本当に仕事が忙しい人だっている。だから、言葉だけで嘘だと決めつけることはできない。

問題は、その後だった。

『いつなら話せそうか、聞いてみてください。具体的な時期を一緒に考えてくれるなら、待つ余地はあります。

ただ、期限も話し合いもなく、あなたにだけ我慢を求めるのなら、それは二人の問題ではなく、あなた一人に押しつけられた問題です』

送信する。

私は缶を持ち上げた。

ふと、土曜日の男を思い出した。

彼は帰り際、「また飲もう」と言った。

私は笑って「そうですね」と答えた。

連絡先は交換していない。名前も聞いていない。

あれもまた、具体的な約束を伴わない優しさだった。

私たちは、相手に期待しなければ傷つかないと思っている。

けれど本当は、期待している自分を見ないようにしているだけなのかもしれない。

スマートフォンが震えた。

SNSの通知ではなかった。

会社の同僚、佐伯からだった。

『今日、駅前で見かけました。声をかけようか迷いましたが、誰かと一緒だったのでやめました』

私は缶をテーブルに置いた。

駅前。

誰かと一緒。

土曜日のことではない。今日は月曜日だ。

それなのに、心臓が一度だけ大きく跳ねた。

私は返信欄を開き、閉じた。

もう一度開いて、短く打った。

『そうだったんですね。気づきませんでした』

送信。

すぐに既読がついた。

返事は来なかった。

私は空になった缶を握りつぶした。

誰にも見られたくない自分がいる。

そして、誰か一人くらいには、見つけてほしいと思っている。

その矛盾を、私はまだ処方できずにいた。